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「あの…やっぱり私、良いよ」

「何がだ?」

「服とか…買ってもらうの悪いから要らない。居候なんだし、誰かのお下がりで十分だよ」


そんなことしてもらう義理なんてないし、同情を受けるのは嫌だし、と俯く藍楽をヴェルヴェットは目を丸くして見 抑え切れぬといった風にクスリと小さな笑いを零した。先程から静かだったのはこのせいだったのだ、彼女なりに悩んだ上の結論なのだろう。しかしツナやリボーンはそんなことを気にするような人間ではない。特にツナは(聞こえは悪いが)彼女のことを単なる匣としか思っていないようで 道具を一番良い状態で使うための作業に過ぎないのだろう。ヴェルヴェットにしたら同情なんて感情がツナにあるとは思えず 敢えて口には出さないが胸中で彼女に反論をした。


「そんなの気にすることじゃない。ボスは兎も角、リボーンは親切心からしてるはずだ。ありがたく受け取ってやれば良い」

「どうせ皆、私が異世界から来たとか信じてないくせに…」


藍楽は寂しそうに遠くを見やりついつい今まで思っていたことを口から滑らすと ヴェルヴェットは溜め息を吐いて先に歩き始めた。ああ、今ので嫌われちゃったな、と初めて出来た友人を失ったと思い 靄のかかった気分が更に霧濃くなる。しかし前方にいたヴェルヴェットが振り向き早く来るように促せば 少女の耳元で何かを囁いたのだった。

藍楽はその内容に言葉を失いぼんやりとヴェルヴェットを見つめる。そうして瞳で何かを語ると相手は無表情な中にもどこか優しい雰囲気を漂わせて「本当だ」と一言告げた。戸惑いがちに彼女の真意を読み取ろうとするが悪意がないことが分かると藍楽は嬉しそうに微笑み 先程とは打って変わって元気よく足を踏み出す。彼女が囁いた言葉――それは口には出さないが様々な不安に囚われていた藍楽の心をとても軽くしてくれた。


『ちゃんと信じてるぜ。リボーンも私も、お前の味方だ』


そこには敢えてツナの名前は入れられていなかったが 何故か絶対の自信を込めて紡がれた言葉は藍楽の心に響いた。見知らぬ世界でいつの間にか疑心暗鬼になってしまっていた藍楽が 本来の天真爛漫な自分を取り戻すには恐らくそんなに時間は掛からないであろう。




彼女達が入った店から少し離れたカフェ。長い襟足を風に揺らし独特な髪型をしたエスプレッソを楽しむ果物、否、綺麗な顔立ちをした人間。その顔にはどこか人を小馬鹿にした表情が浮かび 朝早くから道を行き交う人々を上から目線で眺めていたが 視界に見知った人間が入り視線でその後ろ姿を追った。隣りには初めてみる人間らしきものが歩いているが 人間の醸し出す雰囲気とは幾分違うので彼女を『人間』という項目から外す。雲属性が強いようだがあの物体は何なのだろうと強い興味を惹かれ 勘定すると彼女達の尾行を開始した。


「クフフ、好奇心が疼きますね」


にんまりと笑う果物の名前は六道骸。藍楽のことは既にアジトにいる幹部全員に伝えられていたが 生憎彼は任務を終えたばかりでまだヒューマン型匣の存在を知らなかったのだ。ショップに入った二人をショーウィンドウからさり気なく覗くと 彼女達はどうやら服を選んでいるようだ。先程は後ろ姿しか見えなかったが今度は藍楽の顔がハッキリ見えた。彼女は『美人』より『可愛らしい』の表現がピッタリで少し抜けた表情が骸のストライクゾーンを直撃し、彼は惹かれるように店内に入って行ったのだった。


全ては必然――羽化を待つサナギはゆっくりと胎動を始め 羽ばたくその刻を待っていた。





(リボーンが信じていないはずないだろう。だって、彼は――)
匣02.了
03に続く


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藍楽はボンゴレ逆ハーになりそうな予感…




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あきゅろす。
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