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「あのボスと一緒にされるのは心外だな。私はヴェルヴェット、勝手にヴェラとでも呼べば良い」
「え、あなた女の人?」
「さては…私を男だと思ってたな」
「あ、いや……はい…」
「ったく、どいつもこいつも…ところで、お前の名前はまだ聞いてなかったな」
「藍楽です」
表情が少なく一見怖そうなイメージがあったが 藍楽へ気を使ってくれたりと優しい一面を見せるヴェルヴェット。この人なら大丈夫、と藍楽が相手の手を握り返せばこちらに来てから初めての笑顔を見せた。全くタイプの違う二人だったがすぐに打ち解け ヴェルヴェットの仕事、匣を手に入れた状況、藍楽のことや腹黒ボスの悪口などを語り合った。勿論ヴェルヴェットの話の中には匣に関した情報もあったが謎を解決するには至らず、固い表情をする藍楽を元気付けるように肩を叩くヴェルヴェット。そしておもむろに藍楽の顔へ手を伸ばした。
「そういえば、今更だがお前怪我してるぞ」
「本当今更だけど」
「結構深いな…ちょっと待ってろよ」
ヴェルヴェットは青い石がついたリングに同じ色の炎を灯しコテのようなものを取り出すと傷口へそっと触れさせた。炎を顔に近付けられて一瞬身を引く藍楽だったが 熱くないことが分かると大人しくなり楽しそうに瞳を輝かせた。
「もう良いだろ」
「…?あれ?もう痛くない」
「痛みを鎮静させた。でも、だからと言って治療しないのは駄目だからな」
「へぇ〜…ありがとう、匣ってすごいんだね!」
「……そう言うお前も匣だろ」
「言われてみればそうだった」
彼女が当てられていたのは『雨コテ』と呼ばれる代物で痛みを鎮静する働きがある兵器。初めて見る(自分以外の)匣を興味深げに見つめ喜ぶ藍楽をヴェルヴェットは呆れたようにたしなめた。だが藍楽は自分が匣という実感がなかなか沸かないものだから曖昧な返事で苦笑いをするしかなかったのだった。
がらんどうな部屋に響くのは 明るく元気な声と少々低めの落ち着いた声。ラベンダー色のカーテンがふわりと揺らぎ新しい風を室内に運ぶのと同時にヴェルヴェットの心境にも変化が現れ始めていた。
「(ボンゴレも捨てたものではないかもな…)」
ヴェルヴェットが隣りに目をやると 実年齢より精神がやや幼く感じられる少女は 蝶の匣をいじって遊んでいた。ツナから聞いた情報では彼女は匣兵器――しかし一見しただけでは分からない。人間となんら変わらないように見えるのに彼女が匣兵器だと断言したツナ。ファミリーに属する者達は彼の超直感が何よりも信用に足るものだと知っており、ヴェルヴェットもそのうちの一人だったがにわかには信じ難かった。
彼女にとっては異世界から来たと言う事実のほうがよっぽど信じやすく 一番に信じたリボーンを称賛する。毎日に何の面白みも見出だせなかったヴェルヴェットだが、これから彼女の教育係りとして充実した毎日が送れそうな気がして少女を眺めていた。そうしてコミュニケーションを深めながら小一時間程経過した頃、再びノック音がした。
「入るぞ」
返事も聞かずに扉を開けたのはリボーン。ノックの意味がないじゃないかと呆れる藍楽を余所に彼は何もない部屋を興味深々な様子で見渡し感嘆の声を漏らした。
「おま…よくこんな部屋に住む気になるな」
「そう思うなら何か恵んでくださいよ」
藍楽は先程リボーンに裏切られた恨みからか棘を含んだ返答を返しぷくっと膨れた。すると棘に気付いた彼は強気の態度に楽しそうに喉を鳴らし 優雅な足取りで隣りに来ると彼女の顎を掬って妖艶に微笑んだ。
「強気な女は嫌いじゃねーぞ。なんなら今日はオレの部屋に泊ま」
「女好きなのもいい加減にしろ」
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