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「起きろ、ヴェラ」


夢の浅瀬で波と戯れていると突然現実へ引き戻される。


私のことを女とも思っていない我らがボス――爽やかな見た目に似合わぬ腹黒さは天下一品であった。



《匣的君主論――02.アメジスト色の匣》


部屋の向こうからツナの声が聞こえたかと思いきや次の瞬間には蹴破られる扉。スーツ姿のままソファで眠りこけていたヴェルヴェットは衝撃に驚きもはや反射と言っても言いほどの速度でリングへ炎を灯した。巨大鎌が入った匣を取り出し構えるも 侵入してきた人間の正体を知ると取り出した全てをしまい込み 不機嫌そうに体制を整えた。侵入者が如きツナはそんな彼女へ小さな鍵を投げ付け 小さく鼻を鳴らす。


「いきなり入って来て何だ。折角寝てたのに…」

「それは悪かったな。実はさっき新しい匣が入ったからお前に教えてやろうと思ったんだよ」

「……お前って、本当性格悪いよな…」

「何か言ったか?」


独り言だ、と目を逸し 上着に手を通すヴェルヴェットへ 笑顔で対応するボス。彼女が睡眠中だと言うことを分かっていて起こしたのだから彼女の言うことは一理、いや一理どころか正しくその通りだとツナ自身自負していたが そう言う人間に限って他人に言われると腹が立つ。床に倒れている扉を踏み付け部屋の中へ入ると新しい匣について語り始めた。


「お前が持ってきた匣、雲属性だった」

「へぇ…じゃあ雲雀の手に渡るのか。何が入ってたんだ?」

「人間」

「………あ、悪い。今ちょっと聞きそびれた」

「そうかそんなに燃やされたいか」


グローブを手にはめてにこやかな笑顔を振り撒けば ヴェルヴェットは口を閉ざした。匣兵器にヒューマン型があるとは初耳でついつい腹黒上司の不興を買ってしまったようだ。それは本当に兵器なのかと問えば経緯を説明するツナ。そして『異世界トリップ』がなんたらと言うところまで話が来ると彼は不満そうに眉根を寄せた。あの時は了承の返事を返したものの未だ信じられていなかったのだ。第一何も証拠がないのだから 信じろと言われてもそれは非常に困難を極めるだろう。


「ふーん…リボーンは信じたのか…」

「あいつ何考えてるんだか。ま、変な匣を持って来た責任はお前が取るんだな」

「(何でも私に押し付ければ良いと思いやがって…)」


ヴェルヴェットは単なる伝達係りに過ぎないのに何故新しい匣の世話を押し付けられなければならないのか、と目を吊り上げた。毎度こうして面倒事を押し付けられ、本来の住まいであるヴァリアー本部へ帰る日数は徐々に減っているのだ。実力もある彼女はこんな生活にいい加減見切りを付けフリーの殺し屋へ転換したいと常々考えていたため これは良い機会かもしれないと一人ごちた。しかしその前に異世界やら新しい匣やらと言われている輩に会ってみるのも悪くない、そう考え鍵を指に通してクルクルと回す。少しやる気を出した彼女を見るとツナは洗練された仕草で部屋を出て行った。続いて部屋を出るヴェルヴェット。

赤い絨毯の上をゆっくり歩き 複雑な構造をしている本部にしては珍しく直線的な道を進む。目的のものは既に前方にあり 中にいる人間の姿を勝手に想像した。兵器なのだから男だろうか、自分よりゴツいやつなら一回コテンパンにしてやろう、などと藍楽にしてみれば不吉な想像が膨らんでいく。そうして扉の前までくると静かにノックをしたのだった。



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あきゅろす。
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