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自分の先生なのに、と力なく呟く。酷く体が寒かった。脊髄に氷を埋め込まれ 神経を伝って末端神経まで麻痺していた。そうしているうちにも廊下を照らす橙色の陽光が角度を落とし 刻々と処刑の時間は迫っている。深桜にはディーノを失うなんて考えられなかった。どうして自分はいつもタイミングが悪いのだろう。長い間己の本音を否定し続けてきた罰なのか。
深桜はへなへなと床に崩れ落ちた。妖しく微笑む絶望が深き錬獄へと誘っていた。危険を伝える手はあるはずだ。あるはずなのに、見つからない。希望のない放送室に切なそうなカラスの鳴き声が届く。胸が張り裂けそうで 透明な液体が一雫頬を伝った。
時計の音がうるさい――すると不意に雲雀が動いた。そうして思案顔で深桜の携帯を勝手に開き、
「だったら、妨害電波を壊せば良い」
と言い放つではないか。妨害電波を壊す。つまり悪いものは根元から絶てと言うことか。深桜は彼の一言に惚け そうして僅かな希望を見出だした。
「妨害電波を、破壊する…?」
「妨害電波のせいで通じないんでしょ?なら、原因となるその電波を無くせば良いはずだ。…違うかい?」
「確かにその通りだけど…」
自分にそんなことが出来るのだろうか。何処からその電波が放たれているかも、どんな種類の電波かも分からないのに、そんな大仕事をやり遂げることが――いや、違う。
「……私、やる」
そう、出来るかではない。そんな問いは陳腐で無意味だ。そうではなく『出来なければいけない』なのだ。ディーノは以前殺されかけた深桜を助けた。ならば今度は彼女が助ける番、彼女にしか出来ない。ゴシゴシと目を擦り深呼吸を一つ。
「雲雀君、私もう少し学校に居ても良いかな?」
「駄目」
「即答!?」
あと少しだけ、と祈りのポーズ。家に帰ってからでは時間的に間に合わない可能性がある。深桜は一刻も無駄には出来なかった。だが雲雀はムスリと仏頂面のまま。ならば咬み殺されてもやるしかない、と覚悟を決めた刹那 雲雀が鷹揚に腕組を解いた。
「……原則は駄目、だけどね」
「原則は…ってことは…」
「風紀委員長監視のもと居残りってことなら構わないよ」
ただし早くしてね。ぶっきらぼうに告げると緩慢な手付きで頬杖をついた。跳ね馬を咬み殺すのは僕、だから簡単にやられちゃつまらない。そう考えたゆえの結論であった。
強い光を放ち 決意に満ちた深桜の瞳、揺らぐことのない想い――己を自覚し迷いが消えたコンパスは確固たる指針で戦艦を導く。
最果ての黒海――孤島の灯台は希望の欠片を落とし 荒れ果てた廃船へ一筋の光を送るのだった。
(そういやボス、忙しくて忘れてたが今日はクリスマスだぜ)
(あーそうだな…教会に顔くらいは出してみっか)
code.08 パスワード了.
09に続く。
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ビスマルクは…説明すると長いのであまり気にしないでください←
また、当初予定していた題名とは変わってます。
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