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『コマンダー』――それはリストの作成者でもあり ザンザスの元へ反逆者リストを持ち込んだ張本人。この一連の事件はそれほど単純なものではなく ディーノさんと反逆者のどちらが勝とうともコマンダーの思惑は成功するのだ。
暗号は分かっても そんな複雑な人間関係など分からない私は 真剣な表情をしたロマーリオさんをそっと伺い見た。自分から更に危険区域へと足を踏み入れていることに恐怖が襲う一方 これでもっとディーノさんへ近付けたような感覚に陥り微かな喜びを覚える。そんな矛盾を抱える根本的原因を全否定しつつ 私は頭に残る意味深な暗号をゆっくりと噛み砕くように反復していたのだった。
ルッスーリアが持ってきてくれた水を口に含む私。時間感覚のないこの部屋で 会いたいと、来て欲しいと、一体どれほど願い祈ったことだろう。失望と絶望とに満ちた神楽月――酷く水分を欲しているはずの私の喉は水一滴さえも通さず 代わりに瞳からは決壊した水滴が流れ出ていったのだった。
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会場に流れる美しい独奏。ヴァイオリニストの奏でる旋律に聞き惚れるカタリーナの隣りで俺は用心深く周囲を見回した。
「(これじゃあ、見合いパーティーどころか婚約パーティーだな)」
ボンゴレ9代目は欠席をしているが彼の代わりに幹部達が出席し 他の同盟ファミリーを代表する猛者達も顔を揃えてこの会場にいた。まるで二人が婚約することは決まっているかの如く その類の話を持ち掛けて来る。
「こんにちは、キャバッローネ10代目。そうしてお二人が並んでおられるとまるで夫婦みたいですな」
「結婚式はいつされるのです?」
「どちらに似ても可愛らしいお子さんが生まれるでしょうな!」
「ははは…」
冗談じゃない。見合いだけで婚約もしないし結婚もしない。折角深桜が大事だと気付いて認め掛けたのに そんなものしてたまるか。心の声が外へ漏れ出ぬか内心ヒヤヒヤしながら マーモン達に会いに行ってから小一時間経っているのにも関わらず全く姿を見せない深桜達が帰って来ないか出入り口を一瞥。すると隣りからゆったりとした足取りで近付いてくる一つの影があった。
「お久し振りですね、キャバッローネ10代目」
「こちらこそ…マスケローネ9代目」
差し出された手には沢山の傷跡。俺はその手を取り握り返すと 楽しそうな輝きを称える相手の青い瞳を睨み返した。マフィアには珍しいドイツ移民から成立つマスケローネファミリー。元はドイツの秘密結社だったらしいが 何代か前にイタリアへ活動場所を移したとのことだ。従って彼らはドイツでの顔が広い。
――絶対に暴いてやる。
昔はあんな嫌がっていたくせに 何年もボスをやっていると俺もマフィアが板に付いてきたようだ。笑顔の下で決意を固め ガタイの良い男――リストに名前が乗っている敵、アメデーオへ標的を定める。恐らく俺や深桜を襲った敵の首謀者もアメデーオだ。
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