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「ム…ここは4にしておくよ」
「うふふ、マーモンがそう来るなら私は6よぉん!」
「(どーでも良いんだけどなぁ…)」
卓上の王者ジョーカ――それは支配者の望むままに動くクイーン。暗号の荒波は少女達を引き裂き 優れた戦艦は広大な海原の藻屑となりゆくのだった。
Code Spiral
code.06 トロイの木馬
月明りの入らぬ食堂。夜空に瞬く星達はことの成り行きを傍観し あれやこれやと真実を囁き合っている。ノートパソコンに手を付けた私は 部屋の真ん中から聞こえる楽しそうな声に苛立ちを隠せずにいた。
「じゃあ8ー」
「う"お"ぉ"ぉ"い"!!てめぇまた流しやがったなぁ!!」
「しししっ!だって俺王子だもん」
やっぱり訂正。一部の人間だけが楽しんでるようだ。どちらにしろうるさいことには変わりはない。俗に言う大富豪又は大貧民と呼ばれるトランプに興じてる彼らの声は私の集中力を殺ぎ 暗号を解読する手は段々と遅くなっていった。
8切りがなんだと言われている大富豪――そのルールは 数字の3を一番弱いカードと決めてそこからキングまでは数字順に強くなり、キングまで行くと今度はエース、2、そして最高位のジョーカと続く。自分の持つ手札を如何に早く使い切りクリアするかを競うゲームである。それには地域や国によって様々なルールがあるが そのうちの『8切り』とは 8を出したら今までのカードは全て流される、というものであった。
今のを合わせて ベルフェゴールという金髪少年が8切りをしたのは計3回。どうやら彼の次にいるスクアーロが被害に遭っている模様である。
「(…って、気が逸れたし!集中集中…!)」
しかし騒がしい彼らのお陰で 真後ろで踏ん反り返っている紅瞳のボスを過剰に意識せずに済んでいることは確かだった。ウォッカを飲んでいるザンザスの視線をビリビリと背中に感じながら 私はキーボードを打つ。
ディーノさんと別れ、画面に表示された意味不明な文字の羅列と睨めっこを始めてまだそれほど時は経っていないように思える。読み解いた単語を入力し ポンとエンターキーを弾くように軽く叩くと次の画面が現われた。
「ほーう…流石は深桜嬢だな」
「多分これ、ほんの序の口です」
ここに来てから この作業を幾度したことか。退屈な作業にそろそろ嫌気がさし グルリと食堂を見回すと 一番に上がったベルフェゴールが楽しそうにこちらを眺めていた。独特の機械音を鳴らしながらディスプレイの画像が変わる。
私がまた暗号解読か、なんて飽き飽きした表情で覗き込めば どうやら今までの暗号とは少し違うらしく 20行程の英文が小さな字で真ん中に並んでいた。
「あれ、なんだろうこれ」
「ほう、英語か?どれどれ…
『Kill a traitor.familly is indisponsable.Vassals must obey…』
…なんだかマフィアの戒律みたいな文句だな」
「マフィアの戒律?」
聞き慣れない単語に私が首を傾げると ロマーリオさんは ああ、と頷いた。何でもマフィアの戒律と言うのは マフィア達がファミリー内で守らなければならない鉄則のことだそうだ。ふーんと真新しい知識に感心したかと思えば 再び睨めっこが始まる。
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