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しかし、それは叶わなかった。
私はディーノさんにクイッと手首を引かれ
「深桜、そっちじゃないんだ」
と すかさず制止をかけられたのだ。けれども分かれ道に配置してあった小さな看板の矢印はやはり右を指しており 私は首を傾げた。
「でも看板が…」
「良いんだ、深桜はそっちじゃない」
私の手首を掴んだまま左へ曲がるディーノさん。名残惜しそうに私が後ろを振り向くと 会場が在るであろう道を部下の方々が故意に、と言っても過言ではない様子で塞いでいた。
左側の廊下を進むにつれ 当然賑やかな音は遠ざかる。しいんと静まり返る通路に 私達の靴音と衣擦れの音だけがこだまし 私の胸中を少しずつ不安が支配していった。隣りを歩くディーノさんが心無しか青ざめているようで ますます足取りは重くなる。
そうして沈黙に包まれたまま幾らか歩けば 大きな扉の前でディーノさんは歩みを止めた。私が立ち止まると真剣な瞳で見つめてくる彼。
「お前に、頼みがあるんだ」
「頼み、ですか?」
「深桜、マーモンって知ってるだろ?実はあのリストはマーモンが発信源なんだ。あいつがわざわざ言うことは重要に違いない、そう判断した9代目は 俺に捜査を命令したんだが…」
「どうも俺達だけじゃそのリストは手に負えなくてな。だから仕方無くボスは駄目元でマーモンへ会いに行ったんだ。だが幸運なことに、マーモンはある条件と引き返えにヒントを教えてくれると言ったのさ」
「あーそれでディーノさん、この前イタリアに…あれ?でも、条件って…?」
「それは――」
ディーノさんは言い難そうに床へ視線を走らせる。だがグッと拳を握り締めると全てを語り始めた。
マーモンが出した条件――それは『リストを読み解いた人間とのゲーム』だった。マーモンが出す暗号を読み解くことが出来れば ヒントを授かり得る。反対に彼の問題を解けなければ リストの人間達と戦う資格はない、と言うことなのだろう。
「キャバッローネにもリストを解けるやつはいるが…俺は、お前が一番実力があると踏んだんだ」
「な…!か、勝手ですよそれ!私そんな…」
「深桜」
「…っ!」
「俺は、お前を信頼してるからこそ頼むんだ。確かに急な話だから混乱するのも分かる。だが出来ることなら…この話、引き受けて欲しい」
9代目のためにも、山本のためにも、と 揺らぐことのない決意に満ちた瞳で射抜かれる。今私の目の前にいるディーノさんは 普段の優しくてヘナチョコなボスではなく 沢山の人間の命を預かった巨大マフィアのボスであった。
ディーノさんの瞳に射抜かれ 更には武の名前を出されて私が断れるはずもなく。不安ばかりが募る濃霧のような心持ちのまま 私は小さく頷いた。
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