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「なー深桜、そのネクタイは派手じゃねーか?」
「そんなに気にするなら、いっそ黒と黄色で電信柱カラーにすれば良いじゃないですか」
「ぶっは!そりゃー良い案だ!目立つぜボス!」
ゆらゆらと揺らぐ心――虚ろな真実は闇に紛れ 冴渡る偽りは今を時めく。空虚に満ちたこの世界には 私が信じられる約束など何一つとして存在していなかった。
Code Spiral
code.05 プロトコル
ふわりと桜色のスカートをひらめかせ、ディーノさんにネクタイを一つ投げ付ける私。強引にイタリアへ連れられ来て一日、お見合いパーティーに出席する服装選びにディーノさんや私はあたふたしていた。
ディーノさんは寸でのところで落下を免れたネクタイを着け、鏡で髪型を直している。彼はただでさえ美形顔なのに、これ以上格好良くなってどうすると言うのだろうか。
「なぁ…この前から何で怒ってるんだ?」
「怒ってません」
「そんなこと言って…怒ってなかったら、ネクタイ投げ付けたりしないだろ?」
「…だってディーノさんがお見………何でもないです」
軽はずみにも口から飛び出しかけた言葉を飲み込むと 私の返答に期待していたらしいディーノさんは なんだよそれ、と眉をしかめた。彼はこんな顔でさえビシリと決まっていて 見惚れたい訳ではないのに思わず見惚れてしまう。私がプンと唇を突出して拗ねているとロマーリオさんが仲を取り持つ様に割って入って来た。
「ま、暗号にしろ不機嫌にしろ、全て原因はボスってことさ。…ところで深桜嬢、そのドレスよく似合ってるなー」
「え?…あ、ありがとう…ございます…」
「やっぱり女の子は華があって良いぜ。なーボス?」
「あ、ああ…!」
ニヤニヤとするロマーリオさんは彼を肘で小突き、それに対しディーノさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。俺の科白がなんたら、と小声で口論しているが全て丸聞こえ。以前私とディーノさんが口論していたのはこんな図だったのかと横目で見ていた。
パーティーは本日午後6時から。つまり時計の針が後半周回ったところで開始するのだ。マフィアだらけの場所に行くなど初めての私は 先程から心臓が鳴りやまずそわそわしている。座りながら膝下まである淡ピンクのスカートの裾をいじり 気を落ち着かせるために深呼吸を一つ。
「……よし、じゃあ行くか」
「え、もうですか?」
「約束の時間はパーティーの10分前だからな」
何気なく紡がれた一言に彼を見上げる。するとディーノさんは私を安心させるように笑みを零し 扉を開けた。赤いカーペットが敷かれた廊下を 左にディーノさん、後ろにロマーリオさんを始めとする部下の方々を連立って歩きながら「武も連れて来たかったな」などと考える。
少し進むと前方に分かれ道があり 右手方向からヴァイオリンの独奏やグラスが触れ合う高い音色、それに混じって人々の賑わう声が漏れて出ている。だから私は 会場はそちらなんだろう、と勝手に解釈して右に曲がった。
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