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「ありがとうー!それ机に置いといてくれるー?」
「はい、分かりました!指揮官も長電話してないで早く戻って来てくださいね〜」
「はいはいー」
自然な笑みで手を振り 部下の姿が見えなくなったのを確認すると こっそりと溜め息を吐く。ファミリー随一の演技派である彼女はあらゆる組織でスパイをしており こんなことには慣れっこであった――そう、先程彼女を『警察』と説明したが正しくは『警察にスパイとして潜入しているマフィア』だったのだ。相手を聞きそびれたことを残念に思いながらオフィスへ戻るカタリーナ。
彼女は机の上に置いてあるディスクを手に取ると 自分のカバンに入っていた同包装のディスクと素早く擦り替えた。そうした理由はただ一つ、暗号の本当の中身が警察にバレないため。というのも、その暗号を偶然発見したのは彼女だったのだが それは一度解いた解読文を 更にボンゴレ用語を用いて暗号化してあったのだ。したがってボンゴレ用語はボンゴレ同盟ファミリーの人間以外には分かるはずもなく 先程の部下を始めとした他の者達は暗号を解き終わったと思っている。ならば彼らにはそのままそう思わせておき、あとは自分一人で解読するのが一番の安全策だろう、と考えたのだ。
カタリーナはエスプレッソを飲みながらお見合いの相手を想像する。伯父が探す相手ならばマフィアには違いないだろうが 残虐だけが取り柄の三流マフィアは遠慮したいわ、と考え 警察の仮面を被るべく偽の暗号処理に取り掛かったのだった。
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寒々しい日本の空。クリスマスも近くなり 私は企画の撮影やらなんやらで追われていた。遠条君がアナウンスを練習する声や音響効果の音が背後に聞こえてくる最中 昨日帰ってきたはずのディーノさんの顔がふと浮かんだ。ロマーリオさんによると今は疲れてホテルで眠りこけているらしい。
「先輩、この曲じゃなくてこっちの曲のほうがイメージに合ってませんか?」
「そうだね…うん、変えよっか」
「深桜嬢達、頑張るな」
「なんたってクリスマス企画は一大イベントですからね!」
今年は例年とは少し変えてラジオ番組的に放送することになったが ゲストも呼んでVTRも入れる、そして極め付けには生放送と言うこともあり アナウンサーも機器(ミキサー)も両方担当している私はてんてこ舞いだった。ロマーリオさんが不思議そうにおにぎりを頬張る。
「深桜嬢、なんか機嫌悪いか?」
「別に悪くありません」
「いやいや、絶対悪いだろ。可愛い顔が台無しだぜ」
「ほ、ほっといてください!多分忙しいから苛々してるんですよ」
「ほーう?そうかそうか…」
ドンっと音響CDを机に置く私を納得顔で見つめるロマーリオさん。何か違う方向を納得している気がして 指摘された通り苛々していた私は彼をちょっと睨んだ。こんな時でさえディーノさんのことが頭から離れず、私の機嫌はますます下がっていく。
「なるほど…原因はボスか」
ゴトン。
不意に放たれた言葉に私はマイクを落としてしまった。幸運なことに 床は絨毯のようになっていた為 マイクには大した外傷はない。だが私は今聞こえた言葉にドキリと心臓が跳ね バクバクと血液が身体中を巡るのを感じながら振り返った。
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