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深桜は山本の血筋だけあって それなりに可愛いらしい容姿をしていた。弟同様の黒髪は少しくせっ気が入っており くるんとした毛先は彼女の優しい雰囲気と見事にマッチしている。黙っていれば山本と並ぶ程人気が出たかもしれないが それは彼女の"ある趣味"のために実現しなかった。
「あれー?」
「どうかしたのか?」
深桜は歩きながら鞄を漁る。慌てて山本を追って家を出たので 中身を確認していなかったのだ。
「んー…原稿部屋に忘れちゃったかも」
「戻るか?」
「ううん、良いよ。放送室にコピーあるし」
「あはは、姉ちゃんって用心深いのなー」
深桜は並盛中学の放送局長だった。この『原稿』と言うのは本日の昼休みに流す校内放送のもので 局員が順番に担当する仕組み。本日は深桜が割当てられ昨夜徹夜で作っていた。深桜は鞄を閉じ 突然にへっと笑う。
「早く我が子に会いたいなー」
「ははっ。キャサリンだっけ?本当姉ちゃんって機械好きだよなー」
「いやいや、キャサリンって誰。私の娘の名前はカタリーナだからね。間違っちゃ駄目だよ武」
カタリーナとは放送機器のこと。最近深桜は風紀委員会に申請し 新しい機器を手に入れた。その頭脳が素晴らしいだとなんとかで彼女はキラキラと機械について語り始める。そう、彼女の趣味とは――『機械いじり』だった。
機械いじりと言ってもただパソコンや機械で何かをするだけではない。その機械好きは趣味の範疇を超え、彼女の手にかかれば暗号解読やハッキングなどお手のものだった。恋人は機械、告白された際に彼女が必ず放つ台詞である。何かに一筋となるところは やはり山本の姉だろうか。
「でね、昨日面白い暗号発見したの」
「暗号?」
「うん、すごく複雑で…一部解読出来たんだけど、あとはまだ分かんない」
「へー?なんて書いてたんだ?」
「今んとこ解読出来た単語は…跳ぶ、リスト、馬…くらいかな?」
さっぱり分かんねー、と笑う山本。「私もー」と呑気に返しその話題は自然消滅してしまう。そうして二人歩幅を擦り寄せ学校へ向かっていく。
だが 途中で黒い車が通学路を塞いでいた。何処かの社長が乗るような高級車だ。二人が困っていると扉が開き 金髪の男が姿を現した。
「よ、山本。リング戦のすぐ後だってのに元気そーで何よりだぜ」
「ディーノさん…!どうもっす!」
「あ、こんにちは」
聞き慣れない単語に首を傾げるも 取り敢えず挨拶をする深桜。彼女達はリング戦の祝勝会を竹寿司で行った時に一度顔会わせをしたくらいで 面識はほとんどない。彼女は突然現われた美形に緊張しつつ 弟との会話に耳を澄ます。
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