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決して嘘は言っていない、嘘は。するとロマーリオはしばらく深桜を観察していたが 観念したように両手を上げて楽しそうに笑った。
「ははは、分かった分かった。言いたくないなら根掘り葉掘り聞かないさ。でも頼むから危険なことには首を突っ込まないでくれよ?」
「だ、大丈夫ですって。もう懲り懲りしてますから」
「そりゃ何よりだ。俺はボスに怒られなくて済むからな!」
豪快な笑い声が放送室に響き釣られて深桜も笑みを漏らす。そんな穏やかな空気に包まれれば ディーノが言っていた危険なんて夢のまた夢に思えてくる。だったら今自分が持っている暗号だって そんな心配することではない、そういつもの呑気な思考に戻る深桜。不意にロマーリオの電話が鳴り 彼は相手を確認すると真剣な表情で電話に出た。
「ボス、どうだったんだ?……そうか……何?ん?あ、深桜嬢ならここにいるぜ。…分かった。
深桜嬢、ボスが話したいって言ってるんだが」
「えぇー…ディーノさんがぁ?」
そんな嫌そうな顔してやるなって。ロマーリオは困ったもんだと笑いながら電話を渡した。受話器を面倒くさそうに受け取る深桜。イタリアからわざわざ私に何のようだと言いたそうに低い声で挨拶をした。
「代わりました、深桜です」
『ああ、深桜…えーと…その、元気にしてるか?』
「はい、お陰様で平和な日々を送ってますよ。で、私に御用が?」
『ん?いや、用事って訳じゃないんだが…お前元気にしてるかなって思ってよ!』
「もちろん元気ですよ。だって昨日の朝会ったじゃないですか!」
『う"…でも、なんか心配になったって言うか…声聞きたかったって言うか…』
「ぶふっ!」
受話器から漏れてくる会話を聞いていたロマーリオは思わず吹き出す。イタリアの男にしては恋愛奥手なディーノが珍しく自分から行動を起こしたことに喜びを覚えつつ どこか滑稽さを感じていたのだ。
――こりゃぁ、深桜嬢に完全にやられてるな。
ディーノが己では気づいておらぬ恋心に にんまりと嬉色を浮かべる。そんな彼を眺めていた深桜はクエスチョンマークを浮かべながら電話を握り直した。
『なんかロマーリオの笑い声が聞こえたんだが…』
「はい、一人で吹き出してます」
「ぶっ…ははは!!…深桜嬢、わりぃがちょっと俺に代わってくんないか?」
手招きをして電話を受け取ると またもや堪え切れぬと言った様子でお腹を抱えるロマーリオ。だがディーノ達が 彼が脳内で考えていることを分かるはずもなく「一体何が!?」と些か引き気味であった。触らぬ神に祟りなし。深桜は企画を考えている局員達の元へ逃げていく。
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