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「風羽、ただいま戻りました」
透き通るような声が、静かな部屋に響き渡る。彼女の声に空色の瞳をした老人が頷き、彼女へ両手を差し出した。
「おかえり、風羽。会いたかったよ」
ふわりと人の良い笑顔で微笑めば、優しく風羽の名前を呼んだ。彼の笑顔は、全てを許し包み込んでくれるような 不思議な力を持っている――久し振りの再会で少し緊張していた風羽は、柔らかな笑みに緊張を解き彼に近寄る。そうして かつて家光がそうしたように、手に口付けを一つ落とした。
「いきなり呼び出してすまなかったね」
「いいえ…9代目のためならば、どんなにくだらない理由であっても駆け付けますよ」
悪戯っぽく彼女は笑う。すると、彼女の言葉に皮肉が混じっていたのに気付いた9代目は、楽しそうに更に笑みを深くした。彼らの言葉には部下と上司以上の何か――喩えるなら親子がお互いを慈しむような愛しさが含まれていて。
「我が子同然の 可愛い子の顔を見たいと思うのは、決してくだらない理由ではないと思うのだがね」
「…わざわざ日本からイタリアへ来る私の身にもなってください」
「ははは、それはすまなかった。しかし…」
「9代目…?」
今まで軽口を叩いていた9代目が、ふと口を噤んだ。優しい笑顔は何処かに隠れてしまい、急に真剣な顔つきへ変わる。
「実は…今回はね、それだけの理由ではないんだよ」
「他に理由があると言うことですか?」
「ああ、少し相談したいことがあってね。…君と、家光に」
雨が降るようにポツリポツリと話す9代目を、風羽も真剣な面持ちで見つめる。9代目はしばらく、何かを決め兼ねるように窓の外を見ていたが、不意に顔を風羽へ向けた。
「隣りの部屋に家光がいる。風羽、彼を呼んでくれるかね?」
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家光様を部屋に呼び、先程の部屋に集まった私達は 静かに9代目の言葉を待っている。5分程彼は神妙な面持ちで沈黙していたけれど、おもむろに口を開いた。
「話というのは 10代目候補についてなんだ。最有力候補だったエンリコも、マッシーモもフェデリコも…とても良い子達ばかりだったのに、皆死んでしまった。そして残る候補は――」
「…私の息子、沢田綱吉という訳ですか」
9代目の後を家光様が継いだ。ああ、原作と合わせたらそんな時期だな、なんて思いが私の頭に浮かぶ。
「そう。…優しい綱吉君をこの世界に引き入れるのは、心が痛むのだが、もうボンゴレ10代目を継ぐ者は彼しかいないんだ。だから、彼が本当に相応しいのか君達の意見を聞きたくてね」
9代目は悲しそうに目を伏せた。視線は床なのに、どこか遠いところを見ているようで。もしかしたら彼は「ゆりかご」事件を思い出して、胸を痛めているんじゃないかと 頭の隅で感じた。
「私の息子は、きっと立派にやり遂げます」
そんな9代目の気持ちを汲んで、家光様が優しく声を掛けた。9代目は ありがとう、と目で語り家光様に微笑む。…なんだか非常に良い雰囲気になっているけど、私には一つ腑に落ちないことがあるんだ。
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