[携帯モード] [URL送信]
ページ:2



「い、いきなり何なんですか…!」


 私はしっかりと捕まれている手を振りほどこうと上下に手を揺らす。が、雲雀さんは私を一睨みして無言で歩き続けている。どうやら離してくれる気はこれっぽっちも無いらしい。


「(くそぅ…)」


 私何かした?なんて疑問が先程から頭の中をぐるぐると回っているが、凡人の私に彼の頭の中が分かるはずもなく。これ以上反論すると手離してもらう前に咬み殺されそうで、私は仕方無く大人しくなる。

 彼に手首を引っ張られながら、私は再び自問自答を始めた。――確か教室を出ようとしたら雲雀さんにぶつかって、本を拾ってもらって…そしたら雲雀さんが本の中身見て私に質問してきたから、嘘偽りなく正直に答えたよね。まぁちょっと疑われたけど、私の言うこと信じてくれたみたいで――って、これ私が悪いところなんてないよ!

 疑いが晴れたのに連行されるいわれはない。ああ、なんだか手痺れてきた、いい加減離して欲しいな、なんてこと考えてたら、私の願いが通じたのだろうか。彼はようやく私の手を離し、ある一室の前でピタッと立ち止まる。私もそれに従い立ち止まると扉の上部には「応接室」と書いてあった。悲しいかな、どうやら私は彼の居城に来てしまったようだ。

 彼は扉を開けて中に入る。そしてそのまま扉を閉めて もう私は解放されるんだろう、なんて淡い希望を抱きながら彼の動作を眺める。しかし彼は中に数歩入ったところで振り返り、無情にもこう言ったのだった。


「何してるの?早く入りなよ」

「(まじですか!!)」


 もしかしなくとも『応接室で咬み殺してあげるよ』状態なのだろうか。だったら入りたくない。ていうか、そうじゃなくても入りたくないと言うのが本音だが。しかしモタモタしていると咬み殺されることは明白であり、私は渋々従うしかなかった。


「…し、失礼します…」


 私は恐る恐る部屋に足を踏み入れる。中に入るとそこは応接室と言うだけあって、革張り高級ソファーが真ん中に鎮座していた。それに先程まで彼が飲んでいたのだろうか、お茶の良い香りが漂っている。


「ちょっと待ってて」


 そんな風に私が部屋に見とれていると、雲雀さんが私に一言掛けて棚をあさり始めた。本当に彼の行動は理解に苦しむ。けれど ふと彼は私を咬み殺そうという気はない、と感じた――相も変わらず彼の纏う雰囲気は冷たくて恐ろしかったけれど。私は最悪の事態を免れたことに安堵し、彼に気付かれない様にホッと一息吐く。


「(にしても…何してるのかな?)」


 彼の行動を不思議に思いながら私が入口付近で立ち尽くしていること、およそ2分。雲雀さんは沢山の分厚い本と、ファイルを手にして棚を離れた。そしてそれらを自分のデスクにドサリと置き、私の方を見てこう言った。


「これ、やって」





[*前へ][次へ#]

2/4ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!