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 こんな時 花凛は未来を知る人間が 風羽一人でなくて良かったと感じる。たった一人でこんな苦悩に耐えるのには 些か荷が重すぎる。二人で支えていてもこのザマなのだ、一人ならば押し潰されてしまうに違いない。

 彼女の胸中が痛いほどに解り 花凛は眉根を寄せた。他の人間の目は誤魔化せても 同じ思いを抱く花凛には通用しない。彼女は無意識に小瓶へ触れれば 縋るように強く握り締める。


 そうしてこの時ばかりは 視界の隅で捉えた青い空が哀しみをたたえているような――そんな錯覚に陥るのだった。


****


 じりじりと肌を照り付けるイタリアの太陽。日差しこそ日本に勝るものの 地中海の乾燥した空気は じめじめした日本よりも住みやすい。

 家光は雲一つない真っ青な空を見上げた。向こうでバジルが 洗濯板を使って楽しそうに洗濯をしている。そろそろ終わる頃だろう。


「親方様!洗い終わりました!」

「おう!お疲れさん!悪いなー洗濯頼んじまって!」

「いえ、拙者洗濯が好きですから!」


 少々感覚がずれた愛弟子を慰労してやれば はにかむように笑う。門外顧問チームの美人秘書 オレガノが運んできた日本茶を口に含み 生温い空気を吸った。


「…はぁ〜…やっぱりオレガノの茶は良いなぁ。ま、一番は奈々のだけどな!」

「……親方様、惚気はほどほどに」


 辛辣なオレガノに苦笑し バジル、オレガノ、家光と並んで茶を飲む。門外顧問として多忙な毎日を送っているが 時々こうして皆で寛ぐ時間が彼はたまらなく好きだった。


「あ、拙者和菓子を持ってます。取ってきますね!」

「はは、悪いなバジル」


 元気なバジルの後ろ姿を微笑ましく眺める。その姿が自分の息子と重なり目を細めた。バジルはツナと性格こそ異なるが 色素の薄い髪色や優しい面差しは 日本にいる最愛の息子を連想させるのに十分だった。



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あきゅろす。
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