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『もしもし?』
「やぁ、玉城。どうしたんだい?」
『………なんで雲雀が出るのよ』
「色々あってね。でも丁度良かったよ…運ぶ手間が省ける」
『は?あんたさっきから何言ってんの?』
「君の妹が倒れたんだ。保健室にいるから 迎えにきてあげなよ」
『……はぁあぁぁ!!?』
「ちょっと、うるさいんだけど」
不機嫌な姉は大声で事情を聞き出そうとする。相変わらず騒がしい生徒会長だ。僕は携帯を耳元から離し 淡々と述べる。
「熱出したんだ。それで途中で倒れてね」
『熱!?た、高いの?』
「それは自分で確かめなよ。じゃあね」
――ブツリ。
返答も待たず電源ボタンを押した。騒がしい人間とは極力話したくないのだ。通話を絶ち 元通りに携帯をしまうと 秋桜が身動ぎした。
全てが平凡な少女。知識だけは群を抜いているが 普段はたいして回転もよくないし普通の頭脳。運動も平凡、姿形も整っているものの これと言って群を抜くものはない。特異なことと言えば『帰国子女』と『よく倒れること』か。
カチャリと扉が開き 保険医が氷を持って戻ってくる。なんとなく秋桜には白衣が似合いそうだ、とぼんやり考えた。今日の僕は 彼女のことばかり考えている――否、近頃常にか。
秋桜の額に当てていた氷は 気がつけば既に水と化していた。氷嚢を持ち上げると水滴が散らばり 宝石の如く煌めく。そうして暇になった僕は 一寝入りすることにした。
どれくらい経っただろうか。廊下から聞き覚えのある騒がしい声が聞こえる。それも一人ではない。声変わり前の男子と 例の生徒会長だ。勢いよく扉が開かれる。
「あら、お姉さんね。妹さんはこちらですよ」
「あの、花凛の熱高いんですか…!?」
「えぇ、過労で…でも安心してください、ゆっくり寝れば大丈夫ですよ」
「「よ、良かったぁ…」」
ススキ色の草食動物と生徒会長の声が重なる。玉城は足音を立てて僕に近寄ると あらんかぎりの眼力で僕を睨み付けた。
「過労って…お前仕事させすぎなのよ!」
「知らない」
「『知らない』ー!?お前が出す仕事が多いから花凛は倒れたんでしょ!」
「静かにしなよ」
「うぁー!お前、本当嫌いよ!」
「あの…病人がいるのでお静かにして頂けませんか?」
言わんこっちゃない。保険医に注意されて黙り込む玉城。それくらいの配慮はないのだろうか。保険医が秋桜を背負った。
「玄関まで私が運びます。そのまま病院へ行きますか?」
「いえ、ツナの家で看病手伝ってくださるそうなので 彼の家に行きます」
「そうですか。ではお姉さんは彼女の荷物などを…私は先に玄関に行ってますね」
一礼し部屋から出る保険医。玉城とススキ色の男子は心配そうに妹を見つめていた。男子は「オレ荷物持ってくるよ!」とそそくさと部屋から去る。やはり群れていないほうが気分が良い。
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