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 両手が塞がっているため 保健室の扉を蹴破れば担当医が飛び上がった。


「雲雀君!?ど、どうかしたんですか?」

「これお願い」

「え?……まぁ、なんて高熱!」


 ぐったりとした彼女をベッドに寝かせ 的確な処置を施す保険女医。"現保険女医は有能"と頭の中で評価し 今度給料でも上げてやろうか、と考える。

 額や脇下に氷嚢を当てられ 秋桜は初めよりは落ち着きを取り戻したようだ。未だ苦しそうに眉間に皺を寄せてはいるが 静かに呼吸をしていた。

 僕はベッド脇に腰掛け 布団からはみ出ている小瓶を そっと手に取る。真っ白な鎖に透明な小瓶。中には鎖同様純白の物体がチロチロと揺れている。余りに小さく判断は難しいが 炎に間違いないであろう。


「原因は…過労ですね。疲れが蓄積して、それが取れない内にまた疲れが溜まる…悪循環の末に熱をだしてしまったようです」

「過労…」

「数日ゆっくり休めば大丈夫ですよ。それより雲雀君…腕どうしたんですか?火傷のようですが…」

「ちょっとね」

「そうですか。では塗り薬、ここに置いておきますから」

「そう、ご苦労様」


 氷取ってきますから彼女を宜しくお願いします、そう告げて部屋を去る保険医。保健室には僕と秋桜だけが残され 時折聞こえる彼女の呻き声だけが響く。

 保険医が置いて行った薬を手に取った。咄嗟に庇った腕を見れば 袖口は見るも無残な姿に変わり果てており 正しく本物の炎に焼かれた跡だった。学ランはもういらない、と脱ぎ捨てる。今日中に新しいのを新調しよう。

 僕には服や怪我など全く眼中になかった。それよりも…あの炎は一体何か、そして彼女が意図的に出したものか、はたまたこの小瓶がそう仕組まれていたのか――答えのない問いが 連綿と続く螺旋を形作っていく。

 本人に聞こうにも秋桜は熱に浮かされており まともな返事は到底期待できはしない。僕は気になることが山積みで苛々した。


「秋桜…目覚ましなよ」


 閉じられた瞼の向こうが見たくて 彼女の顔へ触れる。本当に自分はおかしい、と自嘲した。彼女が数日来なかっただけで苛々し 彼女に心配されただけで上機嫌になる。元々僕は気分屋だとは自覚していたが たった一人の平凡な少女のせいで こんなにも気分が変わるなど 実に不思議だ。

 しかし不思議とそれが心地良く感じるのだから 手の施しようがない。己の知らぬ間に ゆっくりと芽吹き始めた恋心――僕がそれに気付くのは 果てしない道のりを二人で供に歩んだ後である。


 秋桜の髪で遊んでいると 不意に並中校歌が流れる。僕は自分の携帯を取り出すも どうやら違う――となれば秋桜である。彼女を会計に任命したときに 僕が無理矢理着信音を変えたのだから。

 布団を捲り 彼女の胸ポケットから顔を覗かせている携帯電話を取り出す。電話の主は彼女の姉からのようである。




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あきゅろす。
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