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「(私なら、彼らを助けられた…)」


 ツナ達に会ってまだ間もない頃、幹部となる人間には前世のことを全て話した。だからもう 仲間になれない苦しみから解放された筈だった。なのにまた自分は肝心な時に助けられなかったのだ。能力があってもそれを使わないのなら無力と同義。中学生時代何度この台詞を呟いたことだろう。


 隣りの獄寺は眉根を寄せて無音を放ち 遠くの広場にいる音楽隊の音色を弾き返していた。全ての音が薄い膜を通して聞こえてくる。冬の間雪の下敷きになっていた枯れ葉が カラカラと春風と遊ぶ。 風羽の小瓶を置いた音が妙に大きく響いた。と、不意に 無言だった獄寺の手が彼女の腰へ伸ばされた。そして体温を分け与えるように優しく抱き締める。


「てめーのせいじゃねーだろーが」

「…でも私が任務に出てしっかり彼らを守ってれば」

「違ぇ、元凶は白蘭だ。……仮に…誰かが責任をとんなきゃなんねーっつんなら、守護者である俺が取る」


 獄寺の言葉一つ一つが 彼女を苦しめるものを剥していく。顔を胸板へ押し付ければ 酷く速い鼓動が聞こえた。生きている。地球から見れば0.1秒にも満たないこの刻を、風羽も獄寺も。風羽は流れる雫へ悲しみを詰め 汗臭いワイシャツへ一粒零した。


 彼の手が背中へ回される。彼女も腕を回す。お互いの存在を確かめるように強く力を込めて。ふと 風羽は昔見た花火のことを思い出した。あの時も ともすれば花火に掻き消されてしまいそうな自分達を お互いの手で繋ぎ止めていたのだった。

 獄寺は涙に濡れた瞼へ優しいキスを落とす。すると力ない笑顔でクスリと微笑む風羽。この数年、風羽は痩せたように思えた。色白の肌が幾分蒼白く見える。


「心配しなくたって、10代目もお前も俺が守ってやるっつーの」

「む。隼人なんかに守られなくたって生きていけるわよーだ」


 疲労の影はあるもののまだ減らず口を叩く元気があるならば安心である。獄寺は一人納得し 今度は紅い唇へ軽く口付けを落とした――が、しかしそれはすぐに離され 彼はほてった顔を隠した。照れていることが分かり クスクスと笑みを零す風羽。自分達はもう子どもではない筈なのに 純粋なところはそのままだった。


「ねぇ…隼人」

「あ"?」

「実はね、今日ジッリョネロのボスに会いに行ってたの」

「ごほっ!」


 ジッリョネロファミリーと言えば 代々大空のおしゃぶりを受け継ぐファミリー。そこのボスは必ず女性で 現ボスは快活な人だと聞く。しかし今ボンゴレと同じく白蘭の攻撃を受け 危機に陥っているはずだった。


「て、てめ!病み上がりのくせに何危ねーことしてんだ!」

「大丈夫よー。ちょっと話しただけだし」

「そう言う問題じゃねーだろ!」


 単独で他ファミリーのアジトへ乗り込むなど正気の沙汰とは思えなかった。だが風羽は穏やかな表情で獄寺を見つめる。それは何かを悟った人間の表情で ゾクリと寒気がした。彼から離れると 滑らかな手付きで小瓶を手に取る。ゆらり。中の炎が傾いだ。





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