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「風羽…風羽!」


 何もない世界。強い風が雲を払い遠くへ押しやる。ぐらり、と視界が歪んだ。いつの間にか雲の隙間から見えるキャンパスへ紫色が追加されていた。綺麗な空なのに返って気持ち悪いのは墓地という特別な場所のせいか。


「おい、風羽!」

「もう何よ、隼人。そんな慌てて」


 しゃがんだままの姿勢でゆっくりと声を返した。列を成して並んでいる黒い十字架達が微かに姿を見せた太陽に煌めいていた。それに便乗して 抱き抱えていた小瓶もこの場に似合わぬ清廉な光を放つ。


 妹のものより少し大きい小瓶。代々ボンゴレボスのみが受け継いできたものだったが 9代目臨終の際 風羽へ預けたのだった。彼は将来ツナが命を落とすことを察知していたのかもしれない。緊迫したこの時代、穏やかに揺れる白い炎は不思議と心をほぐしてくれた。


「何って…てめーいきなりいなくなるなって何回言わせんだよ!」

「置き手紙しておいたじゃん」

「あんなところに手紙置いてあるとは思わねーだろが!」


 皺のついた紙切れを胸ポケットから取り出す。綺麗な字で『出掛けてきます』とだけ記されており 行き先さえ書かれていない。獄寺は息切れしていた。額には汗が浮かび 濡れた銀髪が男には似つかわしくない色っぽさを醸し出している。10年前よりも随分身長が伸び 風羽に負けず劣らず端正なその顔は 幾分厳しさを増していた。


「失礼ねー。あんなに分かりやすい場所はないわ!」

「洗濯物のポケットが分かりやすいとは初耳だぜ」

「いや、分かりやすいじゃん」


 洗濯するときは必ずメイドさんが点検してくれる。だから発見率は高いなって思ってワイシャツを選んだのよ。獄寺は自信満々に経緯を語る風羽に 頭が痛くなった。この姉妹は昔から何処か感覚がずれている。

 しかしどんなに反論しても 結局は振り回されて終わることは分かっていた。中学生の頃程ではないが 彼女は相変わらず独特な雰囲気を保っている。そんなところは何年経っても変わらず 胸の奥から愛しさが溢れるのが分かった。探し人が見つかったことに一息吐き がしゃがしゃと銀糸を掻き混ぜる。


「…たくっ…病人なんだから少しは大人しくしてろよな」

「回復したから心配無用よ」

「移動中にいきなり意識失ったやつがよくゆーぜ」


 安堵をすると一日中走り回っていた疲れがどっと押し寄せる。そのせいで口調が荒くなり 風羽は己の失態を責められている錯覚に陥った。否、獄寺が自分を責めるはずがないと分かっていても 自らが責めずにいられなかった。地面へ影を落とし そっと十字から目を逸す。


「……ごめん」

「…は?」

「私も…任務に行ってれば、目の前の彼らは死なずに済んだかもしれないのにさ」


 目頭にじわりと熱が集結する。乾いた唇を舐め 震える拳を握り締めた。彼女は一昨日急な目眩に襲われ 気を失った。そのため昨日は自宅療養していたが 本来彼女も行く筈の任務中にミルフィオーレの急襲を受けてしまった。目の前に並ぶ墓は その仲間のものだ。





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