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 あっさり意見を無視され カツンカツンという遠ざかる靴音を聞く風羽。先程の冷戦で少し皺のついた楽譜を小脇に抱え 部員達が待っている空き教室へ戻るべくピアノを閉じる。

 耳元に残る三拍子――妖艶に傷口を抉る雲雀の笑みが脳裏に張り付く。彼女は唇を噛み締め ぶるるっと恐怖に身体を震わせると それらを振り切るように廊下を駆けていったのだった。




*****



――ピンポーン、ピンポーン。


「ん?」


 マンションの一角、コーヒーを片手に10代目をあっと言わせるような新技の研究をしていた俺は突然のチャイムに顔を上げた。俺の家に訪ねてくるなんて10代目か山本、もしくは俺を目の敵にしているチンピラ共くらいしかいない。けれど今野球バカはその呼び名の通りに野球に熱中、10代目は具合が悪いだとかで家で療養してるはず。だから消去法でチンピラだと判断した俺は 精一杯ドスを聞かせた声で返事をした。


「あ"ぁ"?誰だ!」

『ひっ…獄寺君…!あ、あの…秋桜花凛です!』

「……秋桜?」


 俺の予想に反してスピーカーから聞こえて来たのは聞き覚えのある女子の声で、その主は『いつも10代目の周りをうろついているうっとうしい女』改め風羽の義妹。俺が改めてスクリーンを覗き込むとそこには秋桜が映っていた。何故俺の家を知っているのか。わざわざ玄関を開けてやるのがかったるくて 俺達はそのままスピーカー越しに会話を始めた。


「何の用だよ」

『あ、その…Dr.シャマルに会いに行かない?今ツナ君の家にいるってリボーンから連絡あって…でも一人で行くの緊張すると言うか…』

「Dr.シャマル?けっ…冗談じゃねぇ!風羽誘うか、じゃなかったら一人で行け!」

『そんなこと言わずにー!風羽誘おうにも仕事でいないし…それに、きっと獄寺君が会いに行ってあげたら喜ぶよ。しばらく会ってないんでしょ?』

「喜ぶのは女が会いに行った時だけだっつの!とにかく、俺は行かねーぞ!分かったらサッサと帰りやがれ!」


 そう荒々しく叫んでブチッと通話を切る俺。先程秋桜の口から出たDr.シャマルという男、そいつは天才殺し屋『トライデント・シャマル』として名を馳せた医師であり 俺はその名を聞くと8歳まで暮らしていた城を思い出してとても嫌な気分になるのだ。


 俺はマフィアのボスを親父に持ち 自分から家を飛び出したあの日まで豪邸暮らしをしていた。オフクロは死んでしまっていたが 姉貴とそれを除けば何一つ不自由のない生活。城の世界しか知らない俺は我が儘放題に育って 召使共は坊ちゃん、坊ちゃん、なんて俺に寄り添い シャマルはその親父の専属医者として城で暮らしていた。当然俺とも知り合う訳で 昔は余裕しゃくしゃくのあいつに憧れて髪型まで真似したものだった。

 だがそんな幸福な生活は長くは続かない――全ては召使共の噂話を盗み聞きしたことで変わった。オフクロは親父に殺された、それは恐らく変わらぬ真実。それを知った俺はグチャグチャに掻き乱れた心のまま家を飛び出し イタリア各地を放浪していた。なのに今さらになって家を思い出させるシャマルに会うなど冗談じゃない。

 第一あいつただのエロ医者だろ、と新しい煙草を咥え乱暴にリビングへ腰を降ろす俺。白い煙が室内にたなびき ぼんやりそれを眺めていたが ふと、一つ気にかかる点を発見して煙草を口から離した。


「…何であいつ、俺とシャマルが知り合いだって知ってんだ?」




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