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 気管を圧迫していたトンファーが失せると私は呼吸が楽になった。深呼吸で心臓を静めて 恐る恐る雲雀さんを見上げる。かち合う二人の瞳――と思ったら 彼は瞬く間に視線を逸した。どことなく雲雀さんの顔がほんのり赤い。


「雲雀さん…具合でも悪いんですか?」

「うるさい」

「し、心配しただけじゃないですか…」

「……そんなのいらない」


 そうして 怒るのも面倒くさくなっちゃった、と背を向けた雲雀さん。一言「仕事」と命令するとソファに腰掛けた。先程とうって変わって 今は上機嫌そうにお茶を飲んでいる。今まで不機嫌だったではないか、と私は面食らわざるえまい。

 まるで雲を掴むような気分。私は嬉しさ半分呆れ半分で突っ立っている。咬み殺されなかったのは非常に嬉しいのだが なんだか損した気分だった。そんな私の名を雲雀さんが呼ぶ。こっちに来いと言っているようだ。


「どうしたんですか?」

「首。血出てるよ」

「…あ、トンファーの…って、いだだだ!!ちょ、何すんですか!?」

「拭いてあげようとしたんじゃない…そっちこそ何、その態度」


 雲雀さんは あろうことか私の傷口を学ランの袖でぐいぐい押してきたのだ。塩を塗られなかっただけましだが 地味に痛い。普段ほとんど"ない"と言っても過言ではない『親切心』を この時はどうしたことか発揮する彼。しかしその行為は思いっきり裏目に出てしまっていた。


「さっきより血出たね」

「そうですね…(雲雀さんが余計なことしなければ…)」


 他人事のように淡々と事実を述べる(実際他人事なのだろう)。敵うはずもないのだが 尚も私へ手を伸ばし 血を拭こうとする彼にささやかな抵抗を試みる。が、悲しいかな、結果は私の負けで終わった。


「い、痛いですって雲雀さん!これくらいの傷なら一人で治療できますから…!!」

「そのうるさい口、どうにかなんないの?」

「だって…うぎゃぁ!!」


 大体 何故彼はこんなにも血を拭きたがるのか。傷付けた張本人のくせに、と怨めがましく唇を噛み締める。 もしかしたら悪いと思ってくれたのだろうか――だとしたら奇跡だ。

 不意に冷たいものが私のうなじへ触れた。急激な温度の変化に 思わず過敏な反応を示す私。


「ひゃ…!?」


 図らずも身体が強張ってしまう。そのまま 雲雀さんは何を考えているのだか全く分からない顔で 襟の中へスルリと手を突っ込んだ。この状況はまさか――私とて馬鹿ではない。顔に熱が上るのを感じ 身の危険を回避せんと咄嗟に彼を押し退けようとする。


「ちょ、ちょちょちょ!!雲雀さん一体何を…!!」

「落ち着きなよ」

「この状況でどう落ち着けと!?」

「本当君ってうるさいよね…やっと取れた」

「へ?『取れた』…?」


 襟の中へ手を突っ込み 一体何するかと思いきや 彼が取り出したのは私が隠していた小瓶付きネックレス。変なことをされるのでは、と恐怖に震えていたため 安心して涙が出そうになる。




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