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「君の隠し事、上手くいってる?」


 見下したように歪む口許。それはまるで古傷を抉るように冷ややかで 鋭く研がれたナイフは以前保健室で言葉を交わした時と同じくらい彼女へ動揺を与えた。彼女の頬に手を掛け耳元で 甘い夢へ誘惑する夢魔が如く囁く。熟しすぎた林檎、その腐乱した香りは風羽の神経へ麻酔をかけ 呼吸する能力すら奪い取っていった。更に追い討ちを掛けるような雲雀の一言。


「…白い炎、知ってるんでしょ?」

「…っ!?…私に、触るな!!」


 肩で荒く息をし 零れ落ちそうな大きな瞳を更に見開く彼女。しかし気が動転していたのも束の間、風羽は呼吸を整えると 凛とした態度で雲雀と向き合った。


「あんた、あれを見たのね」

「ワォ、やっぱり知ってるんだ…嬉しいな。まぁ見たって言っても一瞬だけどね。制服を一着焼かれたよ」

「良い気味だわ、どうせなら全部焼かれりゃ良いのよ」

「けどそんなことはどうだって良いんだ…ねぇ、秋桜について君が知ってること教えなよ」

「いやよ。第一なんだってあの子のことそんな知りたがるのよ」

「……ただの、興味かな」


 彼女が問うた質問に 不自然な空白を伴って返された答え。ねめつけるように顔を近付け ガンを飛ばしていた二人だったが どちらが先に相手の弱点を見つけ捩じ伏せるか、というゲームに参加していた風羽は すかさずそこに渾身の蹴りを食らわせた。


「へー?興味?じゃあその空白は何?」

「空白作っちゃいけないなんてあるの?」

「屁理屈なんて望んじゃいないのよ」


 風羽は何処までも平行線な会話に疲れを覚え始めてくる。そしてどうやら雲雀も段々飽きてきた様子、彼はあからさまに口を屁の字に曲げると嫌そうに顔を逸した。


「もう良いや。また訊きに来れば良いし」

「あはは、残念でした!いつ訊きに来たって教えてあげるものですか、並盛中学風紀委員長様?」

「絶対吐かせてあげるよ、並盛中学生徒会長」


 これで見納めと言わんばかりに思いっ切り火花を散らし いらない、と風羽へ楽譜を投げ付ける。そして彼女が大事そうに抱えれば雲雀はもう興味無いから、と目を背けた。それから何かを思い出したように あ、と小さな声を上げる。


「そうだ、一つ。最近秋桜が妙に無くしものするんだけど」

「花凛が?何言ってんのよ、あの子滅多に物無くさないわ」

「僕もそう思ってたんだけどね。でもこの間は書類まで無くして来たよ」


 だから怒ったけど、と至極不愉快そうに宙を睨み付けた。その日は了平が仲間になった日、つまり彼女が試合観戦へ遅れてきたのはそれが原因だったらしい。それでちょっと元気なかったのかーなんて呑気に納得し 風羽は腕を組む。


「だから君からも注意してやってよね。あまり書類無くされると迷惑なんだ」

「だったら風紀から外せば良いじゃん」


 日々仕事に追われる彼は一つ溜め息を吐くと 彼女の意見を無視して身を翻した。確かに最もな意見であるし 普通の風紀委員なら書類を無くした時点で即刻クビである。しかしながら雲雀にしてみれば花凛をクビにするなど 並盛中が無くなることと同じくらい有り得ないことなのだ。恐らく風紀委員会を解散することになったとしても彼女は側に置いておくだろう。彼は近頃それ程までに花凛に執着していたのだった。



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あきゅろす。
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