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「あーあ…何が嬉しくてこんな仕事しなきゃいけないのよ」

「会長が自分から引き受けたんですから、文句言わないでください。第一、そう言うことはちゃんと仕事してから言うもんです」

「そうそう、会長の妙な意地に振り回される俺らの身にもなってくださいって」

「あんたら…なんか最近結託してるわよね…」

「あー!下書きにペンキ飛んだ!」


 仲間に了平が加わり ファミリー幹部達の顔ぶれも着々と揃いつつある残暑の季節、風羽を筆頭とする生徒会メンバー達は数週間後に迫ってきた体育祭準備に追われていた。空き教室の床には体育祭を飾る垂れ幕布が轢かれている。美術部掛け持ちをしている書記が下書きをしている隣りで別の垂れ幕にペンキを塗っている副会長と平部員、更にその隣りでは忙しそうに風羽が何かを書いていた。


「そんなに嫌なら何で引き受けたんですか?」

「だって雲雀が『ワォ、生徒会ってこんな仕事すら出来ないんだ?』って言うもんだから悔しかったんだもの」

「…まんまと風紀委員会に乗せられたって訳っすね」

「本当…僕らは被害者ですよ」

「そこ、お黙り!」


 風羽は自分でも馬鹿なことをしたものだと自覚している手前 部員達の呆れ返った視線が心に鋭く突き刺さる。仕方無いだとか不可抗力だとか言い訳をまくし立てながら消しゴムを投げ付けるも それは散り散りに散らばった部員達には当たらず 小学生かと突っ込まれそうな子供染みた彼女の行動に彼らはだんまりを決め込んだ。

 そもそも何故彼らがこんな面倒臭い作業をすることになったのか。それは先程彼女が言った通り 生徒会と敵対している風紀委員会に押し付けられた(本当は乗せられて引き受けた)ため。しかしその根本的原因は風紀委員会と生徒会の不和にあった。


 風羽が来る以前 並盛中の委員会は生徒会も含め 全て風紀委員会の傘下に入れられていた。権限は全て風紀にあり 不満があれどその武力ゆえに逆らうことは不可能。しかし風羽が編入してきて彼女が生徒会長に抜擢されて以来 その関係は少しずつ対等なものへと変わっていった――主な要因は風羽が雲雀と風紀委員会全員を相手にしても対等に渡り合える戦闘力を持っていたことなのだが。彼女に恐れをなした風紀委員達は生徒会に手を出さなくなり 雲雀自身も良い遊び相手が出来たと喜んでいる始末。その為それまで風紀が全て行なっていた学校行事などの実務も最近では生徒会が担当する機会も増えていた。

 しかし校内ではほぼ対等の権力を持つ雲雀と風羽は非常に仲が悪く お互いに牽制しあいながら過ごす毎日。彼らのちょっとした気紛れや口喧嘩で部員達が処理しなければならない仕事量は増えたり減ったりするのだった。今回の件も ほとんど風羽の個人的な理由だったと言っても良いだろう。

 全ての原因である風羽は書面にサラサラと鉛筆を走らせていたが 下書きが今日中には終わらないことを察すると 紙束を持って椅子から立ち上がった。


「ちょっと失礼、すぐ戻って来るから」

「あ!会長逃げる気っすね!」

「そんなことしたら秋桜さんに言い付けますよ?」

「ナイスです副会長!会長は花凛ちゃんには弱いですからねー」

「あんた達ねぇ…戻って来るって言ってんでしょーが」


 こう言う面では全く信用のない風羽はペシッと平部員の頭を叩き廊下に出た。疑いのまなざしを背中に感ずるも彼女の頭は別のことで占められており 彼らの視線は大した気に掛からなかった。目指すは音楽室、左手に持った楽譜を握り締めて足早に部屋へ入る。



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あきゅろす。
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