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 応接室前。取っ手に手を掛けては離し、離しては手を掛けるを繰り返す。緊張のために私の手は酷く汗ばみ 慌てて制服の裾で拭いた。扉の向こう側にいる我が鬼上司は 私がここにいることなど既にお見通しだろう。


「(…ひ、雲雀さん…もしかしたら居なかったりしないかな…!)」


――コンコン。


「開いてるよ」

「(って、いるし!!)」


 山本君がツナ君の仲間になった日 怒れる雲雀さんから逃げるように立ち去った私。それ以来どうも顔を合わせがたく 意図的に遠巻きにしていた。いわゆるサボりと呼ばれるあれである。

 だが どんなに彼を避けようとも 任された書類はこなすのが私のモットー。出来上がった書類を提出せねばならない状況で 私はある選択を行った。それは 副委員長へ提出すること――が、それこそが誤りの元であった。

 何故なら 普段なら雲雀さんへ直接渡す私が突然違う行動に出たことを 副委員長が怪しんだのだ。流石『自称委員長の懐刀』だけはある。あの濃い顔の気迫に押され 隠し切れずに理由を述べたところ 案の定大目玉を食らってしまった。

 副委員長は普段こそ優しいが 仕事をしっかりこなさなければ鬼へと豹変する。「言語道断だ!」と怒鳴られ 私はやむなく応接室へ来た。


「どうしたの?入れば」

「は、ははははい…!失礼します…!!」


 雲雀さんの一言で ズシリと胃が重くなる。くらくらと目眩がし 極度の緊張で頭痛までしてきた。しかし 虎穴に入らずんば虎児を得ず、ここを乗り切らなければ いつまでも逃げ続けることになる。私は勇気を振り絞って扉を開けた。


「久し振りだね、秋桜」

「(ひぃぃぃ!咬み殺す準備万端だ―!!)」


 私にとって 今の応接室はまさに地獄。雲雀さんは扉の前でトンファーを構え仁王立ちになっていた。無表情だが 相当ご立腹なご様子である。


「今頃何しに来たの?」

「た、体育祭の書類を提出…ひぃ!?」


 口を開くや否や トンファーが壁にめり込んだ。パラパラと破片が足元に散らばり 砂埃を立てる。彼は乱雑にトンファーを引き抜くと 仕込み鉤を出して私の喉元へ突き付けた。

「それ一日でやれって言わなかった?」

「い、一応一日でやったんですけど…でも…その…!!」

「うるさい。黙んないと咬み殺すよ」

「(質問したのそっちじゃん!?)」


 鉤が喉元の皮膚を裂き 温かいものがツーと肌を伝う。殺される、そう思った。私の視線は彼の射るような瞳に釘付け、身動き一つすることは出来ない。

 そんな中 トンファーをあてがったまま 雲雀さんが口を開いた。


「なんで…しばらく来なかったの」

「それは…その…なんとなく会いにくかったと申しますか…」

「何それ」

「だって……ま、前の時…雲雀さんを怒らせちゃった…から、です…」


 なけなしの勇気を振り絞り質疑応答。震える身体を抑え 詰まりながらも答えた私を 誰かに褒めてもらいたい。けれどそんな地獄のような時間は 予想よりも早く過ぎ去った。

 雲雀さんが 思わずトンファーを取り落としたのだ。


「わっ!?ひ、ひひ雲雀さんどうしたんですか…!?」

「……ない」

「え?」

「別に…あれは君に対して怒ったわけじゃない」


 彼は足元に転がったトンファーを畳み 所定の位置へしまい込む。口をへの字に曲げ 苦虫を噛み潰したような表情をしている。怒っている訳ではなさそうだ。




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あきゅろす。
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