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「また会ったか、花凛」

「…こんにちは」


 どうして私の名を知っているのだろう、そんなことが頭を過ぎる。短い会話を交わし再び沈黙が流れた。彼と初めて言葉を交わした時もこんな感じだったな、と少し前の記憶が蘇り 靄の掛かった思考で薄暗い部屋を見上げると ただ一つある小さな窓にさえも鉄格子が何重にも重なっている。

 閉塞感が私を襲い、夢の中とは言えあまり良い気分ではなかった。視界から鉄格子を追い払うようにサッと視線を下へ降ろすと 偶然にも橙色の人と目が合ってしまった。ゆっくりと、そして鷹揚に話し始める彼。


「]世〈デーチモ〉には…まだ心の準備が出来ていない」

「え?」

「少なくとも、ブラッド・オブ・ボンゴレが覚醒するまではお前達のことは話すべきではない…」


 一体何の話かと思えば それは以前会った時の話の続きだった。私やリボーン以上にツナ君を知っている彼は何者なのだろう――かつて熱にうなされていた私は 夢と現実をさまよう最中ふと男の声を捕らえた。熱があるせいで幻聴を聞いているのだと無視をしていると 何度も同じフレーズを繰り返す声。安らかな眠りを妨げるそれに苛立ち目を開くとそこは暗い牢屋で 格子の向こう側には彼が静かに佇んでいたのだ。その時は今とは少々違う状況で 私は手枷をされておらず扉の鍵は外されていた。


『花凛、まだだ――]世〈デーチモ〉には、まだ早い』


 相変わらず格子の中にいる私。彼が再び同じフレーズを繰り返せば 私はこの出来事を不思議に思う間もなく夢から覚めてしまう。そうして夢覚め遣らぬ気持ちで一階に行けばお見舞いに来ていたツナ君と山本君。前々からツナ君は私達のことを疑問に思っていると感じていたため なんとなく夢の人が言っていた内容を理解出来 ツナ君がわざわざ訪ねて来たのは『私達が未来を知っているのか否か』を問いたいのだろう、と分かったのだった。

 頼りなさそうな色でゆらゆらと揺れる炎が ぬくもりに飢えた牢獄へ暖かみを与える。ツナ君を]世〈デーチモ〉と呼ぶ不思議な男の人は 黒いロングコートにストライプのお洒落なスーツ、威厳に溢れたその姿はさながらマフィアのボスのようだった。

 橙色の彼が両手に灯された炎で牢の格子と手首の鎖を溶かし去るとひんやりとした空気が牢に流れ 同時に彼の額も輝きを失う。すると彼は優しい手付きで私を立たせ 当初よりも穏やかな表情で私の頬を撫でた。柔らかい口調で言の葉を紡ぐ彼。


「……夢は夢に過ぎないんだ」

「え…?」

「どんなに懐かしんでも、どんなに求めても…それは夢」

「……」

「それだけは忘れてはいけないよ。さもないと…可愛い花凛、お前までも夢に閉じ込められてしまう」


 だから早くお帰り。普段のツナ君にそっくりな可愛い笑顔を零し彼は私に告げる。何を言いたいのかイマイチ理解出来なかったが ここから出たいのは私も同じ、だから了承の頷きを返せば彼は更に笑みを深くした。

 それと同時に地鳴りが響き 轟音を立てて天井が落ちてくる牢屋。遠くで銃声や断末魔が聞こえ思わず身体を縮こまらせると 橙色の彼が私を守るように包み込んだ。現実に戻るべく 夢の中で夢に浸り――深い暗闇へと意識を埋まらせたのだった。


 懐かしい橙色の人、彼は私を知っていて きっと私も彼を知っている。視界の隅で溶かされた鎖を眺め――狂想曲の指揮者は ゆっくりとタクトを振り始めた。






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