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どのくらいの間走っただろうか。花凛はマラソン選手顔負けでかれこれ20分は全力疾走していた。そろそろ体力も限界に近付いており、時々足がもつれそうになるのを必死に堪えている。そんな彼女をそこまで急き立てる理由はただ一つ。
「(怖い怖い!あの人黒いオーラ放ってる!!)」
チラリと己の背後へ目をやれば、銀色の凶器を手に同じく全力疾走して(彼に取っては全力疾走する程のことでは無いのかもしれないが)追ってくる人間が一人いた。
「いい加減咬み殺されなよ」
「む、むむ無理です…ッ!」
狩りを楽しむように妖しい笑みを口許に浮かべ、物騒な発言で恐怖を一層かき立てる人間は雲雀恭弥。後に 雲の守護者となり、並盛の影の支配者でもある人間である。
しかし、そんなことは今の花凛にはどうでも良いことだった。何故なら逃げることに集中していなければ肉食動物に捕まった草食動物の如く捕食される(彼の言い方で表せば、咬み殺されるだが)ことは明明白白なのだから。
「(あの人実際に会うと怖いよぉぉ!)」
声にならない悲痛な叫び声を上げ、何処にそんな力が残っていたのかと思う程のスピードで走り続ける花凛。
――あれ…こんな光景、何処かで見たような…
不意にそんな思いが脳裏を掠めた。
――そうそう。あれはずっと昔、私が追っ手から逃げ回ってて……昔…?
「(ん?昔ってなんだ?)」
見知らぬ記憶とでも言おうか。突如頭に浮びあがった光景に疑問を覚え心の中がザワザワと波風を立てる。
「(何…?なんか変な感じ…)」
『…で…あ――よ――』
何を言っているのか。突然頭の中に鳴り響く声があったが、ノイズが酷く聞きとれない。彼女はもっとよく聞こうと声に夢中になり、雲雀のこと等忘れて必死に動かしていた足を止めてしまっていたのだった。
「…?」
あれ程嫌がって逃げ回っていた少女が突然立ち止まったことを 些か不思議に思いながら 雲雀は走るスピードを落とす。
「(諦めたか?)」
つまらないな、と一人ごちて草食動物もとい遅刻者との距離を段々縮めていく。ふと、花弁が一枚ふわっと雲雀の目の前を横切り 釣られて顔を上げた。校門横の桜が満開で、ひらひらと幻想的な空間を作り出している。いつの間にか並中に来ていたのか。
目の前の草食動物があんまり逃げるものだから、つい夢中になってしまったらしい。心の隅でそんなことを思いつつ、目の前の少女に歩み寄れば 彼女は難しそうな表情を浮かべてぼんやりとしていた。
「逃げるの、止めたんだ?」
そう問い掛けるが、帰ってくるのは無音の空気のみ。先程慌ただしく逃げ回っていたと思えば、その次には急に立ち止まって物思いに耽り、あまつさえ雲雀の問いに全く答えないこの少女に 雲雀は一人眉を顰める。
「(…変な子)」
苛立ちとは別に、純粋に不思議な興味が湧いて出て来る。すぐに咬み殺してしまうのはもったいないような気持ちがし しばらく待って様子を伺っていた。が、どうも返事をする気が無いらしいことが分かった。
「…もう良いや。じゃあね」
元々忍耐に欠けてる性格な上に散々走り回されて苛立っていた雲雀。彼は痺れを切らし トンファーを振り上げるのだった。
(あの懐かしい光景は、貴方に関係があるの?)
2.first contact-2 了
3へ続く。
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