[携帯モード] [URL送信]
ページ:8



 ますます格好付かなくなった俺は落ち込み 壁に手を付いた。そんな俺に 風羽はクスリと笑みを漏らす。


「獄寺、落ち込むなってー」

「……どうせ俺は金ねーよ…ふん、貧乏マフィアで悪かったな…」

「中学生なんだし、背伸びする必要ないじゃない。私は…気持ちだけで嬉しいわ」

「…え?」

「だーかーらー!獄寺の一生懸命なところは悪くないって言ってんの!…結構新鮮って言うか…ああもう!とにかく落ち込むな!」

「な…!?」


 これは褒められたのだろうか。失望させたと思い込んでいた俺は 安堵すると同時に身体中が熱くなるのを感じた。ふと気がつけば 彼女の顔が非常に近くにある。


「お、落ち込んでねーよ!ってかてめぇ近ぇ!!」

「うっそだー。今落ち込んでたじゃん」

「るっせー!んなの過去だ過去…って近付いてくんな!」

「あはは、赤くなっちゃって可愛いー」


 完全に遊ばれている、そう気がついた俺は 無性に悔しくなった。金欠に子供扱い。全く男として見られていないのは明らかである。

 そんな折 俺の男としてのプライドを満たし なおかつ風羽へ一矢報いるのにピッタリな考えが閃いた。多少恥ずかしいが ここまで来たら自棄だ。


「…ったく…おい風羽、ちょっと腕出せよ」

「何?……って、何その楽しそうな顔!?」


 怪しい!と引き気味な風羽の腕を掴み 俺はポケットをまさぐった。買ったばかりのアクセを取り出し チェーンが付いてる方の手首に取り付ける。そうして彼女の手をとれば――騎士が姫君に忠誠を誓うが如く 軽く口付けを落とした。


「ご、獄寺!?何してんのあんた!!」

「る、るっせー!俺だって恥ずかしいんだよ!」

「じゃあ何でしたのよ?!」

「て、てめぇがいつまでも俺をガキ扱いするからだ…!」


 今 自分の顔は真っ赤だろう。どうか夕焼けで誤魔化せますように、と頼りない祈りを捧げ 彼女の手を離した。元々自分用として買った品物のためシンプルなデザインだが 悪くない。

 これでチャラだとばかりに風羽を見 やるよ、とぶっきらぼうに告げる。するとパッと顔に紅葉を散らす彼女。少しやりすぎてしまったのだろうか。

 俺は"要らないら捨てて構わない"と伝えるべく口を開きかけ――が、それは只の杞憂に過ぎなかった。


「ありがとう…大事にする」

「ん、んなもん別に大事にしなくて良いぜ」

「ううん…なんか分かんないけど…贈り物の中で一番嬉しい!」


 にっこりと微笑む彼女が眩しすぎて 思わず目を細める。どんどん彼女へ惹かれていく自分。『何があっても彼女は守る』、まるで己が騎士にでもなったような錯覚に陥るのは 先程の行動のせいか。


 闇夜に冴える渡る月さえも 雲隠れをする程の風羽。陽炎の美に囚われた俺は はにかみながら彼女へ微笑み返した。


 流れ行く旋律――短調の調べは 未だ序章。








(ちょっとだけ、特別なの)
第1章28番lightning and flame-3了.
29番に続く。



[*前へ]

8/8ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!