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帰る旨を伝えるべく再び獄寺へ視線を向けると 彼は呆然と立ち尽くしていた。彼の心が繊細であることは知っているのだが 今回は一体どうしたことか。
「獄寺?どうしたのよ?」
「え?あ、いや……」
「風羽ちゃん、帰らないの?」
「ああ、そうだった。じゃあ獄寺、私達帰るから」
「何!?ま、待てよ風羽!!」
私はグッと肩を掴まれ振り向かされる。さっきからなんなんだ、と冷たい視線を送ってやれば多少たじろぐも 大した効果はなかった。
「…笹川、ちょっとこいつ借りてくぜ」
「「え?」」
肘下あたりを乱暴に掴まれ 獄寺は突然速度をあげる。突然だったものだから 私の身体は図らずも慣性の法則にしたがい抵抗をする。それと共に文句も言ってやる気でいたが 彼の横顔が真剣そのもので思わず口を閉ざしてしまった。
「(あ〜…まだ帰れないのか私は…)」
諦めにも似た溜め息をこっそり吐き 京子に目で合図をする。そうすれば彼女は 私の取り落とした荷物を拾い「家に行ってるね!」と手を振った。なんて良い子だ、とこんな状況にも関わらず見とれる私――冷静第一なのだ。
そうして気が付けば 私達は再びナミモリーヌの前にいた。まさか入るんじゃないだろうな、と警戒すると 私の予期した通り彼は店に入って行く。本日2度目の顔合わせをした店員へ苦笑いをし 座席に着いた。
一日に2回もケーキ屋に入るなど そうそうない経験である。しかし袖振り合うも多少の縁、付き合ってやろうではないか。
「エスプレッソ1つ」
「あ、私ストロベリーパフェ1つにストレートティー1つ」
夕飯時にパフェを食べることに彼は目を見開く。「太るぜ」などと失礼な発言を聞き流し 私は早速本題に入った。
「…で、何よ。いきなり連れ出して。花凛待ってんだから、どうでも良いことだったら怒るわよ」
「ああ、んなこと分かってる……風羽……てめぇは…」
俯き加減の獄寺は至極真剣。私は紡がれる言葉を聞くべくテーブルの上へ身を乗り出し 耳を澄す。しばらくの沈黙後 彼は続きを紡いだ。
「女が…好きなのか?」
「お前、地獄に落とされたい?」
真剣に何を語るのかと思えば 訳の分からぬことを言い出す。しかも非常に乙女には失礼な発言で 私は反射的に銃を取り出していた。
眉間に銃口をあてがえば 彼は「違ぇ、間違った!」と弁解する。腹が立っていたが 獄寺の必死な様子に銃をベルトへ戻した。間違ったとしても失礼な発言には変わりないが 保留にしておいてやろう。
そうして再び静寂が訪れ――彼はウィンドウから燦々と降り注ぐ太陽を浴びながら ためらいがちに口を開いたのだった。
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