[携帯モード] [URL送信]
ページ:2



 イタリア本部。9代目の手元には透かし彫りの花模様が美しい木箱がある。彼は皺だらけの手で蓋を開き 古ぼけた羊皮紙と 光沢のある高級そうな布切れを取り出した。

 そっと布を除ければ見覚えのある小瓶が姿を現す。花凛へ贈ったものよりは二回り程大きいが 同じ素材で出来ているようだ。中には彼女が持つ小瓶同様 白銀の炎が煌めいている。


「純度が増している…」


 これは初代の時代から受け継がれてきたもの――ボンゴレボスのみが 触れることを許された代物だった。彼がこの小瓶を目にしたのは ボンゴレの試練を乗り越え \世〈イーノ〉としての証を手にした日。白き炎が放つ美しい輝きは 若き9代目には衝撃的であった。目が釘付けになり 長い間食い入るように見つめていたのは 今や良い想い出だ。


 彼が8代目より授って以来 この箱を開いたのは数える程しかない。ゆえに彼が以前箱を開けてからは久しく時が経っていた。しかし記憶にある炎と比べ 今目の前にある炎は格段に純度が増している。一体何が、と眉をしかめる。

 開くはずもないが 試しにコルクの蓋を捻った。やはりビクともせず 彼はすぐに諦める。そうして地道に 小瓶、コルク、鎖と言った順に外部を点検するも異常は見られない。

 ならば何故――良い兆候とは思えず 彼の心にザワリとさざ波が立つ。ボンゴレの血が 警告を発していた。

 9代目は過去の事例を確かめるべく 茶焦げた羊皮紙を開く。初代の頃より 木箱の開閉時には必ず記録を残す慣例があり 歴代の記録が書き記されていた。年老いた指で 慎重に文字列を辿っていく。


「これは…?」


 すると初代の欄で彼の超直感がピンと反応した。脈絡もなく日本語で書かれた 歌うような詩である。9代目は祖先の筆跡をなぞり 厳かに読み上げた。


 我失いしもの 遠き大空にて戻らん

 来たる日 輝きを取り戻さば

 諸刃の剣にて 死せる者あり


 輝きを取り戻す――白い炎が純度を増したことに相違ないであろう。"遠き大空"は大空の守護者。だが残りのキーワードは何を示唆しているのか、なぞなぞ問答のような詩に頭を悩ます。そして中でも最も彼の関心を引いたのが最後の行だった。

 "諸刃の剣"と呼ぶからには 善い面もあり悪い面もあるに違いない。ふと 9代目が持つ直感の指針が 微かに触れた。が、余りに抽象的すぎて確信が持てない。決して良い意味を持っている訳ではないこの詩を 自己流の解釈と共に 手元の紙へ書き写す。


 私が失ってしまったもの

 遥か先の時代

 大空の守護者の元へ戻るだろう

 来たる未来

 炎が再び輝きを取り戻したとすれば

 その諸刃の剣によって

 命を落とす者あり


 折り畳み じっくりと考えるべく内ポケットへ隠す。そうして羊皮紙と小瓶を戻し 木箱へ鍵を掛けると 隠し部屋にしまい込むのだ。ざわつく心――警報の鳴り響く中 彼は日常へと戻っていった。




[*前へ][次へ#]

2/8ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!