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『新一年生の入場です。皆様、盛大な拍手で迎えてあげてください!』
アナウンスの声とともに割れんばかりの拍手が体育館内に響き渡る。風羽は思わず耳を塞いだ。左隣りにいるボクシング人間のお陰で 煩い騒音には大分慣らされたとは言え、やはり静かな場所を好む風羽には耐えがたかった。
その例のボクシング人間と言えば今にも椅子から立ち上がらんばかりに身を乗出し、自分の妹の勇姿をしかと目に焼き付けようと瞳をランランと輝かせている。
「(このシスコンめ…)」
自分こそシスコンの権化である。が、それ棚にあげ 呆れたような白い視線を左側の彼に投げ掛けてやれば、ボクシング人間と目が合ってしまった。
「む?なんだ玉城!耳など塞いでいては拍手出来んだろう!!さぁ!極限にお前も拍手するのだ!!」
ガオォォ!と言う効果音が正しくピッタリの吠え声で、ボクシング人間こと笹川了平は 盛大な拍手の音にも負けない音量で声を張り上げる。
「嫌よ、入学式だなんて面倒くさい」
気怠そうに元も子もない一言を放つのは風羽。しかし了平を一蹴したものの彼女もやはり自分の妹が気になるらしく、サッと入場列に目を走らせた。
――いない…?
何度探してもそこには花凛の姿は見えなかった。既に座席の方に座ってしまったのか、とそちらに目を走らせてたがやはり妹は見当たらず。
「うっわ…嫌ーな予感」
ぼそりと呟くと了平が珍しく反応を示した。普段は全く人の話など耳に入らず、喩え耳の中に入ったとしてもそのままををすり抜けて行ってしまうのに、だ。
「うむ…そういえば、お前の妹が見当たらんな。もしや迷子にでもなったのかもしれんなー!!」
と、ガハハと彼が冗談交じりに笑えば
「了平…それ、笑えないって」
引きつった笑みを顔に貼り付けて返事を返した。
――あの子なら有り得る。
イタリアにいた頃の行動を思い返せば、容易に迷子になっている花凛を想像出来る。それは長年の付き合いのせいか、はたまた彼女が出掛ける度に毎回迷子になるせいか。恐らく両者であろう。
「(てか、私花凛に学校の道順を教えたことあったっけ?)」
思考の海に沈んでいると不意に妹が見当らない原因が自分であることに思い当たり、つーと冷や汗が背中を伝う。
「…私ちょっとトイレ行くわ」
並盛中学の生徒会長である彼女は、本来ならば式の間中体育館にいなければならない。だがそんなことはお構いなしである。いきなりガタンと立ち上がり側で騒いでいる了平と自分の担任に一言言い残し体育館を急ぎ出た。
風羽が向かう先は、迷子になって途方に暮れているであろう妹の元。
――ごめん花凛、今行くから…!
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