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 音符を辿っていた手を止め 記憶の糸を手繰り寄せていく。最近聞いた歌、10年前、20年前――そうして 私は自分が幼かった頃の記憶の中にその曲を見出した。

 朧気だが確かにこの曲だ。聞いたのは幼い頃の一回きりだが 小さかった私は 綺麗な曲なのに変わった歌だと思ったのを記憶している。しかし、意外に好きなメロディーだったのだがあの時以来一回も耳にしない。だから誰かのオリジナルだろうと思い 再び耳にするの日が来ることはあるまい、と諦めていた。まさか彼女がこの曲を知っていようとは。

 驚嘆と嬉しさがない交ぜになった複雑な心境で 私はCDをかけた。すると風羽が演奏しているのだろうか、ピアノの伴奏が入り 前奏が終わると共に花凛の美しい歌声が流れる。心の中が清められていくような澄み切った声に浸り 私は歌に聞き入った。

 途中から風羽と花凛のアンサンブルが入ってくる。伴奏の間に時たま笑い声も混じっており 目を瞑って耳を済ませると私はまるで 彼女達がすぐそこにいるような錯覚に陥った。


――私が風羽と花凛に出会ったのは 約8年前。


 ゆりかご事件の直後で 私がすっかり憔悴しきっていた矢先のことだった。気分転換に遠出をし 私が住んでいた場所よりも ずっとずっと北にある森へ足を運ぶ。その日は朝から晴れていたのだが いきなりスコールのような雨が降ってきたのだ。私は雨が降ると直感していたから傘を持ってきてはいたものの なんとなく雨に降られたい気分で 濡れ鼠になって森の中を歩いていた。

すると 一陣の風が通り抜け――


『そのままじゃ、風邪引くよ?』


7歳前後の女の子が 大きな傘をさして背後に立っていた。


『…いや、いいんだよ。今は濡れたい気分なんだ』

『じゃあお風呂で濡れれば?』

『……は?』


差し出された大きな傘と少女を見比べる。させ、と言われてるようだ。


『それあげるわ。…花凛のだけど、あの子は私と同じ傘使えば良いから困らないし』


 随分大人びた口調の子である。折角の好意を無下にする訳にもいかず私は傘を受け取った。と、少女が私の袖を引っ張り何処かへ歩いて行く。家に案内してくれるのだろう。


『雨が止むまでここにいたら良いわ』

『ふふ…ありがとう。小さなレディ』


 辿り着いた先は大きな建物。中から沢山の子どもの声が聞こえてきて 騒がしい。彼女に案内されて連れて来られた建物は ボンゴレが支援している孤児院だった。

 当然私は院長から熱烈な歓迎を受け しばらくの間厄介になることにしたのだが どうも先程の少女が気になる。彼女を目で探せば 直ぐ近くで小さな子供達をあやしており やはり大人びた雰囲気通りお姉さん的存在らしい。ふと 彼女があやしていた子供のうち一人の女の子がこちらを見た。


『おじいさんは…本当にボンゴレ9代目なんですか?』

『あぁ、そうだよ』

『じゃあ 10代目はやっぱりツナ君…』

『こら花凛!』

『ムグ!』


 ツナ君?それは家光の息子の綱吉君のことだろうか。しかし何故彼女がそのことを知っているのか。苦笑いしている大人びた少女と 未だに口をふさがれて不服そうな少女を見つめる。よくよく観察すれば 邪気は感じられないものの 二人の少女が纏う雰囲気は何処か不思議で。


『君達は、何者なのかな?』

『ただの乙女よ』

『平凡な少女です』

『普通自分で言わないと思うのだが…』



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