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「おーおー1年のくせにサボっちゃってるよ」

「サボって良いのは3年なってからなんだぜー?」


 あ。この人達さっきの3年生だ。ダイナマイト事件が済んだと思ったらまた次のいざこざかよ、なんて青ざめるオレを余所に 獄寺君と風羽が一歩前に出る。何すんだろうと眺めていると 二人は自分の獲物を構えて


「消してやらー」

「3年だってサボっちゃダメだって知ってた?」


 なんて息ぴったりで彼らに喧嘩を売りに行った。さっきから観察してると この二人なんだかんだで良いコンビかも。でも喧嘩は止めたほうが――学校に響く爆撃音を背に オレは溜め息を吐いたのだった。



****



 すっかり日が沈んだイタリア。動かぬ足を休ませる為に黒塗りのソファへ腰掛け 私は一枚の手紙を読んでいる。

 桜の香りがするこの手紙には やけに沢山の便箋が入っており 私が贈った小瓶の御礼やこれまでの出来事について書き綴ってあった。この手紙の送り主は 今頃学校で雲雀という名前の男の子にこき使われている頃だろうか。

 充実した毎日を送る彼女の手紙に 私は一人含み笑い。娘のように可愛がっている子から手紙を貰うと言うのは やはり嬉しいものである。


「『京子の桜餅は絶品でした』…か」


 私は花凛や風羽から定期的に手紙を受け取っている。その中でも花凛の手紙では「京子、花、風羽、山本君、雲雀さん」は頻出単語となっており 学校であった出来事や仕事を任されたことなど様々なことを書いてくる。内気で気弱な子だったが 友達も出来て楽しくやっているようだ。

 そうして10枚近くにも及ぶ手紙を読み進めると 私が全て読み終えたのは30分ほど経ってからだった。

 まるで一冊の本を読み終えたような気がして一息吐く。だが封筒に手紙の他に紙が入っているのに気付いた。まだ手紙があったのか、と取り出せば そこには花凛お手製のCD、1枚の楽譜、そして小さなカードが挟んであり イタリア語で私宛てのメッセージが綴られていた。


『親愛なる9代目に捧ぐ

贈り物の御礼と言ってはなんですが受け取って頂ければと思います。最近、妙にこのメロディーが頭に浮かんで仕方無いのですが…9代目はこの曲ご存じですか?

貴方の部下、花凛』


「ああ、歌とはまた洒落な…」


 嬉しさについ顔が綻んでしまう。花凛は昔から歌が好きで 疲れた私を綺麗な歌声でよく癒してくれたものだった。ひとたび彼女が歌を奏でれば 空気は澄み渡り 枯れた草花すら生気を取り戻すと言っても過言ではない。彼女は自分を平凡だなんて言っているが 立派な才能を持っているのだ。まぁもっとも 彼女は相当恥ずかしがり屋なので その歌声を聞いたことがある者はそうそう居ないだろうが――しかし私は 花凛の才能を隠しておくのは勿体ない、と常々思っていたもので。


 私は彼女から貰ったCDを机に置き 楽譜を読み解きながら 小さな声でメロディーを奏でる。それはとても綺麗な曲で 純粋無垢な花凛をイメージしたような旋律だった。


「(しかし、どこかで聞いたことがあるような…)」



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あきゅろす。
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