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「ツナ君 おはよう!」


 オレが机の上で俯せになっていると 花凛ちゃんに声を掛けられた。にこやかに笑う彼女の頬がほんのり紅く染まっていた気がして首を傾げる。彼女に続いて山本、黒川、そして京子ちゃんと続いて教室に入ってきた。


「お、おはよう!京子ちゃん、花凛ちゃん!」


 オレは京子ちゃん達に挨拶されたのが嬉しくてどもりながら返事を返す。ちなみにオレが花凛ちゃんを名字ではなく名前で呼んだ理由は 名字で呼ぶと『他人行儀だ!』って彼女達に怒られるからだ。外国は名前で呼ぶのが普通だからそう感じるのかな。

 京子ちゃんの笑顔に癒されてオレが妄想の世界に浸っていると 花凛ちゃんが黒川に何かを耳打ちされてるのが目に入る。それとと同時にクラスの女子の花凛ちゃんを見る目付きがどことなく険悪なのに気付いた。陰で聞こえないようにコソコソ話してるけど あれは良いことを言ってないような…(オレはよく言われてるから そういうのには敏感だったりするんだ)。花凛ちゃんは気付いても気にしなさそうだけど オレは良い気分じゃなかった。だって花凛ちゃんと会長は俺に初めて手を差し延べてくれた大切な"友達"だから。

 でも弱虫なオレは情けないことに 女子達の間へ止めに入るなんて恐ろしい真似は出来ない。だって知ってる?団結してる時の女子って怖いんだよ。だから ただ女子達の陰口がエスカレートしないように祈るだけ。ダメダメなオレにはそれしか出来ないもん。

 そうやって自分に納得させていると京子ちゃんが話し掛けてきた。オレはつい嬉しくて 京子ちゃんって本当に可愛いなぁ、なんて幸せに浸るんだ。そしてそのまま話に夢中になれば 花凛ちゃんの陰口なんてスッカリ忘れてしまう。それからも思い出すことは無くて オレが思い出すのは大分後になってからのこと。

 後から思えば どうしてオレはこの時忘れてしまったのか不思議でならない。いや、忘れてなくたってこの頃のオレが止めに入るなんてこと出来なかったに違いないけど、でも、オレが少しでも気に掛けていたのなら 彼女の苦しみを先延ばすことは出来たはずなんだ。


 オレが話に夢中になっていると朝のHRを告げる予鈴が鳴り オレを含めクラスメートは慌てて座席に着く。また退屈な一日が始まるな、と言った溜め息が教室のところどころから聞こえてきて 全くその通りだと胸中で一人ごちる。

 けれどあの赤ん坊がオレの家に来た日から 退屈で普通な日々なんてあるはずが無いんだ。

 先生が教室に入ってくると 後ろから銀髪の目付きの悪い男の子が入って来た。「イタリアに留学していた獄寺隼人君だ」と担任が紹介すると クラス中の女子が沸き上がる。え、女子ってこう言うタイプが好きなの?なんて慌てて京子ちゃんを見やれば いつもよりニコニコしているように見えてガーンとショックを受けた。

 更にそのまま黒川の後ろに座ってる花凛ちゃんも見れば 彼女は一生懸命風紀の仕事をしており 全く転入生を見ていない。むしろ気付いてさえいないようだ。




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あきゅろす。
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