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 早く食べなければ間に合わないはずなのに、花凛はのろのろとご飯を食べていた。するとおもむろに風羽が立ち上がり、手際よく食器を片付け始める。


「あれ…もう行くの?」


 もうそんな時間だっただろうか、焦燥感に駆られ慌てて口にご飯を詰め込むと花凛も立ち上がり、食べ残ってしまった小さなパンを手に取る。歩きながら食べようという算段である。行儀が悪いが 時間がないのならばこうする他に道はないのだから。


「あー…いや、あんたはまだ食べてて良いわ。私はちょっと嫌なやつに目付けられてるから、早めに行こうと思ってさ。…あいつと鉢合わせると喧嘩になっちゃうし」

「嫌なやつ?喧嘩?それ誰?」


 風羽に喧嘩を売るなんて正気の沙汰じゃない――そういう意味も込めて眉をしかめて問い掛ければ、相方は苦虫を噛み潰した様な顔をし


「……雲雀恭弥。あんたも知ってるでしょ?」


と、吐き出すように答える。風羽の口から飛び出た、余りに知りすぎたその単語に思わず目を見開いた。


「ひ、雲雀さん!?…って、あのヒバリ?雲の守護者の?」


 思いっ切り身を乗り出して勢いよく問いかければ、彼女は千切れんばかりに首を縦に振り頷くのだった。


「そう、『あの』雲雀恭弥よ。全く…あいつしつこいったらありゃしない!年下のくせにえっらそうでさー!私の何が気に入らないんだか…!」


 どうやら相当雲雀に対して不満が溜まっているらしい。ぶつぶつと不機嫌そうに文句を言いつつ、溜め息混じりに玄関を出て行った。その後ろ姿を目で追いながら 花凛は姉から聞いたことを反芻する。


――雲雀。


「(そうだ…ここは並盛なんだから彼らが居たっておかしくないよね…ううん、むしろ居なかった方がおかしいくらいで…)」


 彼らと関わりをもつ様になるのだろうか、なんて不安とも期待とも言い表し難い気持ちが心の中を渦巻き始める。


「(ん〜…しかし、あの彼に目を付けられるなんて風羽も凄いなぁ…)」


 感動する的が少し外れているのは気のせいだろうか。あらぬ方向へひとしきり感動したのち、彼女は気持ち改め家の外へ足を踏み出した。

――が、


「…って、ああ!!
風羽待って!道分かんないから連れてってぇぇー!!」






物語はまだ始まったばかり。

少女達よ、疾風の如く駆け抜けろ。








(待っててね、ツナ君!)
0.prologue 了
1へ続く。




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