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――コンコン。


 花凛は応接室の扉を叩いて自分の名前を述べた。すると中から寝ぼけたような声で「良いよ」と聞こえて来たので そっと扉を開き中に入る。


「失礼します」


 中に入りサッと目を走らせると 部屋の持ち主は革張りのソファでゆったりと寛いでいるところだった。恐らく寝ていたのだろうか、あくびを連発している。


「珍しいね、君から来るなんて」

「…お、お仕事しようと思いまして…」

「……ふうん?」


 雲雀は怪しむような視線を花凛に向け 真意を確かめるかのようにジッと見つめる。穴が開くほどに見つめられている花凛は なんだか浮かない顔をしており、彼の視線に戸惑いながらもデスクに歩み寄った。そして鞄から書類を取り出すと これまた高級そうな椅子に座って仕事を始めるのだ。

 雲雀はつまらなさそうに再びソファに寝転がり、静寂が二人を包み込んだ。花凛がペンを走らせるカリカリと言う音と時計の音がいやに大きく部屋に響き 一定のリズムで音楽を奏でているようにも聞こえてくる。規則正しいリズムは まるで子守歌のように雲雀を浅い眠りへと誘っていく。

 そうして彼女が仕事を始めてからどれくらい経っただろうか。突然廊下からワッと歓声が沸き起こった。方角からして武道場方面だろう。


「…草食動物共が群れているみたいだね…」


 騒音によって心地よい眠りから引き戻された雲雀は 不機嫌そうに呟き 舌なめずりをしてソファから起き上がった。校内で群れている生徒達を咬み殺しに行くつもりなのだ。

 だが雲雀の呟きが聞こえたのだろうか、今まで決して止まることの無かった花凛の手がピタリと止まり 彼女は書面から顔を上げて彼に話しかけた。


「…大丈夫ですよ。多分騒ぎはすぐ終わります」

「…は?」


 突然不可思議な発言をする花凛を 雲雀は片眉を上げて見つめる。すぐ終わるなんてどうして分かるのか、そう言いたげな視線であるようだ。


「あー…その、とにかく!大丈夫なんで 彼を咬み殺したりしないでください!」

「…"彼"?君はさっきから何を言ってるの?」


 どんどん自ら墓穴を掘って行く花凛。正直すぎると言うか嘘が下手というか…およそマフィアには似つかわしくない性格なのだ。


「(ハッ!!しまった…!そういえば雲雀さんツナ君知らないじゃん!)」


と、慌てて口を噤ぐも時既に遅し。花凛は己の失態に気付きふよふよと視線を泳がせる。そんな彼女を見ると 雲雀は優雅に組んでいた足を解き 立ち上がって花凛に近付いてきた。雲雀さんの前じゃどうも失言が多いなぁ、なんて頭の隅で呑気考えていた花凛は、彼の行動に何やら不穏な雰囲気を感じ 思わず椅子から立ち上がる。そうしてジリジリと入口へ向かおうとするのだが、雲雀にしてみれば彼女がそのような行動を取ることなどお見通しであり トンファーを取り出すと 逃がすまいとして入口の前に立ち塞がった。




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