空は泣くのにきみは泣かない

朝から雨が降っている。

この雨は夜まで降り続けるらしい。


今、零はぼーっとしながら窓の外を見ている。

その行動を決して珍しくない。

11月に入ってから、零のそんな行動が増えてきているのを俺を始め、里中も天城も知っている。


はたから見ても無理しているのが分かるのに、俺は何もすることが出来ていない。

零には今、心から癒してくれる人がいない。

今、あの子は、奈々子ちゃんはあの霧にまみれ世界にいる。

昨日も捜しに行った。

だけど結局見つかることなく、帰るしかなかった。


零はずっと無理をしている、我慢をしている。

それなのに、今でも昔となんら変わらず俺たち一人一人の心配をしてくれる。

人の心配よりも、早くあの子を助け出したいと思っているに違いなのに。

俺たちの体力の事を一番に考えて行動してくれる。


嬉しい、けど、でも零が無理をしている姿をこれ以上見続けるのは辛い。

俺には何も出来ないんだろうか、零のために何か少しでもしてやれないんだろうか。

最近そればかり考えてしまう。

だから、自然と零と話すことが前よりも減ってしまった。

というか、声を掛け辛くなってしまった。


あの寂しそうな、でも無表情に近い顔で一点を見続ける零の顔。


でも、このままじゃ絶対いけない。

あの子を助け出す前に零が駄目になってしまう。



外は雨。

季節も冬となり肌寒くなってきた今。

零を一人にしちゃいけないと、思った。


「なぁ零ー」

「…ん、何?」

「今日は行く?テレビの中」

「………今日は止めておこうと思う。昨日かなり進めたし、皆も疲れてると思うし」

「そっか。…なら、今日お前ん家行ってもいい?」

「かまわないけど…」

「よし!そうと決まったらさっさと帰ろうぜ!」

「陽介…まだ5限が残ってる」

「そんなのいいじゃん!たまにはサボることも大切だって!」

「いや、でも…」

「ほらほらー早くしないと先生来ちゃうだろー。行くぞ零!」

「はぁ…分かったよ」


あと5分で5限目が始まってしまう。

先生が来る前にさっさと教室を抜け出さないと後々面倒だ。

授業の事は…まぁ里中じゃ不安だから天城に任せることにした。


少し嫌々な顔の零の腕を掴んでさっさと歩き出す。

ここから早く出よう。

学校じゃあ零が休まるわけがない。

かといってあの家に一人だけにしておけない。

奈々子ちゃんも、堂島さんも、いない。

あの広い家にたった一人きり。


辛いよな、本当は。

誰よりも辛くて、寂しいんだよな。

でも、零は弱音を吐くことなんてしない。

というか、出来ないんだよなリーダーという立場だから。


そんな零をリーダーにしたのはこの俺だ。

俺が零をさらに苦しませてしまう原因を与えたんだ。

だから、少しでも、零を守らないと。


なんとか学校を抜けだし、雨の中傘をさして家に向かう。

会話は一切無し。

何か言わねばならないのに、言葉が出てこない。

いつもならこんなことにはならないのに!


零も何も言わない。

やはり無理矢理連れ出したようなものだから怒っているんだろうか…。

謝ったほうがいいのか、と考え始めた時、


「雨、いつ止むかな」


と零の、いつもよりか細い声がした。


「え、あー確か明日の朝には止むとか天気予報で言ってたぜ」

「そっか…。なら明日はテレビの中に行こう」

「お、おぉ」


違う、今はこの話じゃなくて別の話に持っていきたいんだけど、…何か、話のネタはないのか。

と考えていると、またしても零が、


「陽介、さっきからどうした?具合でも悪い?」


俺の心配しないで、自分の事をもっと大切にしろよ!って怒鳴りそうになった。

今何かの箍が外れそうになった。

危ない危ない、今怒鳴ったってしょうがない。


今の零には、ちゃんとした言葉が必要なんだ。

ちゃんと零に伝わるように言わないと。


「いや、俺は全然大丈夫!てか、お前、最近ちゃんと飯食ってる?」

「え、…うん、食べてるよ…」

「本当か?お前ん家行ったら即行で冷蔵庫の中調べるぞ?」

「何、それ………まぁたまに食べない時があるけど…」

「たまに…じゃなくて、ほとんど、じゃないのか?」


図星だったらしく、言葉を詰まらせる。

そうだよな、一人きりで飯食っても味気ないよな。

いつも、必ずといっていいほど奈々子ちゃんと一緒にいたのに。


ごめんな、もっと早く今のお前に気付いてあげるべきだった。


そう思ったら身体が勝手に動いて零を抱きしめていた。

雨に濡れることなんて気にしない。

今、とにかく零を抱きしめたかった、強く、強く。


「よ、うすけ、何、どうしたの?」

「抱きしめたかったから」

「いきなり、なんだよ、全く…。風邪引いちゃうぞ?」

「俺は丈夫だから平気だよ!あ、でも、お前が風邪引いたら大変だな」

「俺だって平気だよ」


「平気、じゃねぇよ、お前は」


「えっ…」


思いっきり抱きしめてやりながら、頭を撫でた。

雨で髪がどんどん濡れてきてしまっている。

やはり早く家に行った方がいい。

でも、これだけはここで言いたい。


この言葉だけは。


「泣いていいんだぜ…我慢することないんだ」

「何、言って……。でも、俺は…」

「立場とか関係ない。泣きたい時は泣いていいんだ。もし泣けないならいつでも俺の胸貸してやるから」

「よう、すけ…」

「だから、無理すんなよ零」

「……あり、がとう…」


零が俺の身体に縋り付いてきてくれた。


これで、少しでもお前の気持ちは軽くなったかな?


でも、大丈夫。

俺はいつでもお前のこと支えるよ。

親友であり相棒であり、俺の好きな人であるお前を。


END


11月12月は本当にやってて辛かったです。

そして、萌えと勢いで書いたから、なんかめちゃくちゃな文に…。

タイトル→「d.side」様より。(PCサイト)



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