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しんしん、ちかく



オレと阿部君の間には、キス以上の関係は無い。
それは、一緒に住み始めても同じだった。
だから、同棲というより同居みたいで。
オレはそれが不安でもあったし、安心もしていた。
もし阿部君を受け入れてしまったら、きっともう戻れない。
だから、いつまでも子供でいられると思ってたんだ。





しんしん、ちかく







数年が経って、オレと阿部君の別れが近づいてきた。
もうすぐで大学の卒業式。
オレは埼玉県立高校の教師、阿部君は実家の仕事を継ぐことが決まっていた。
必然的に、同棲は解消となる。
そしたら、きっとオレ達の関係も自然消滅するだろう。
数年後の同窓会とかで、「若気の至りだったよな」なんて、笑うんだろう。




それが、オレにとっての、優しい最後だから。





「新しいトコ探しといたから。」



「………え?」



それは残り少ない二人きりの夕食をとっている時だった。
何を、と言う前に阿部君は「アパートだよ。」とさも当然のように答えた。
オレは意味がわからなくて、箸をとめてしまった。



「な、んで?」



何いってんだ、と前置きをして、阿部君は言った。



「そりゃ埼玉に戻ンだから、埼玉で住む新しいアパート探さなきゃだろ?」



「そ、だけど。」



阿部君のが正しいように感じてしまう。
自分は間違ってないはずなのに。
まごまごとくちを動かすと、阿部君はハッと気付いたようにオレを睨みつけた。



「…まさかお前、埼玉戻ったら実家に住むつもりとか思ってたんじゃねーだろーな?」



「っ、」



オレが黙ってると、阿部君の顔がますます怖くなった。
深く眉に皺を寄せた阿部君は、なんだか少し寂しそうに呟いた。



「お前は…オレと別れたいのかよ?」



「そんなっ、こと、」



「じゃあ、なんでだよ?」






なんで、いつ別れてもいいようにしてんの?






阿部君の言葉が耳を通り抜ける。



「お前は結局オレを信じてねーじゃんか」



痛い。
我慢してたのに。
知らないって、笑えるように努力してたのに。
阿部君は、


阿部君は、



「好きって…」



「あ?」



「阿部君は、オレに『好き』って言ってくれたこと、ない!
それじゃ、不安になるのも、当たり前だろ!!」



好きなんて言ってもらったことない。
『好き』も『嫌い』も『大好き』だとも。
オレだって、言葉にしてくれなきゃわかんない、よ。
オレのこと選んでよかった?
なんで付き合ってくれてるの?
後悔してない?
どんなに別れる準備をしてたって、オレからは無理だから。



「三橋は?」



「オ、オレ…?」



「三橋は言ってくれないのかよ?
三橋が言ってくれないから、オレだって不安だったろーが。」



オレは心の中で何回も言ったよ。
阿部君に向けて、何回も。
だけどやっぱし届いてなかったみたいだ。



「…好き、です。」



「うん。」



「好き、阿部君が好きです。
すごくすきです、別れたくない。」



「サンキュ。」



阿部君はそう言ってなにも反応してくれない。
オレだって欲しいのに。



「阿部君は、オレも好き、って言ってくれないの?」



「うん。」



「ひど――、」



「愛してるよ。」



阿部君が真顔でそう言った。
半泣きのオレは、びっくりして涙が止まった。
だって、いきなり。



「愛してる。」



「…っ!」



二度目は微笑みながら言ってくれた。
好きも大好きも飛び越えて、そんな。



「――〜、ずるいっ、」



「なにが?」



笑いながら聞いてくる阿部君にちょっと腹が立った。



「オレだって、あ、あ、愛してるよっ!」



「誰を?」



「阿部君をっ」



もうヤケクソだ。
真っ赤になって伝えれば、阿部君はキスをひとつくれた。
オレからも、背伸びしながらひとつ。






今日の夜はいろんな話をしよう。
不安も全部、無くなるはず。
先のことはわからないけど、いつの未来も一緒にいられるといいな。



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