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しんしん、ちかく



どんなに思ったって、いつかは無くなっちゃうかもしれないなんて、そんなの。





しんしん、ちかく







『…阿部君……付き合ってください…』



卒業式当日に、オレは阿部君に告白した。
まだ3月の寒いグランドの中でだった。
阿部君が好きだって自覚したのは高校3年生の夏。
部活を引退してなかなか阿部君に会えなくなった。
会えなくなってからスゴく寂しくて、恋しくなって。
それで、気付いた。
いつからかわからないけど、阿部のことが好きなんだって。



『いいよ。』



『ふぇ?』



『付き合うって言ってんの。』



『…!?』



断られるのが当たり前だと思っていたから、まさか受け入れられるとは想像もしていなかった。
オレは阿部君が好きだ。
凛々しい眉も、角張った手も、怖いけど優しい性格も笑い声も。
本当に、大好きなんだ。
だからオレから離れることは無いだろう。
いつか、阿部君がオレに愛想尽かして別れを切り出されても、平気でいられるようにしなきゃって思った。
オレには、阿部君を引き止めるほどの魅力も無い。
それに。



(阿部君の隣に立つ人が、オレじゃ間違い、だ。)



でも、せめて、少しの間だけ、阿部君の優しさに甘えてもいいでしょ?






それから数ヶ月がたった。
オレと阿部君は、奇跡的にもまだ付き合っている。




その日は久しぶりのデートで、話題の映画を見た後お昼を食べた。
ご飯を食べ終わって一息ついたところで、まるで見計らったように阿部君は話し出した。



『あんさ…お前 今実家から大学通ってんだよな?』



『うんっ、そうだよ。』



『大学から遠くて大変とか言ってたよな?』



『うん…?』



話の意図が見えない。



『オレさ、家出てアパートに住んでるんだよ。
広くて安いし、お前の大学からも近いと思う。』



『はぁ?そうなんだ。
良かったね。』



オレがそう言うと、阿部君はなぜかうなだれた。
それから会うたびに阿部君のアパート自慢が会話の中に入ってくる。



『そんで、広くて部屋が一個空いてんだよ。
誰か住まないかな、とか思って…
一人暮らしって淋しいし…』



『ペットとか飼ったら、いいと思う、よ!』



『そうだよな…はは…』






そうしているうちに、オレ達は20歳になった。
大学2年生だ。
阿部君の誕生日に、二人だけでお祝いをした。
お酒を飲んで、飲んで、酔っ払ってわけもわからなくなっていった。



『三橋…オレの――に、――ねぇ?』



『ふぁ?』



聞き取れない。



『ずっと――かったん…けど、いいだろ?』



『……うん…』



とりあえず頷いといた。
阿部君が何を言ってるのか、グデグデに酔った頭ではイマイチわからなかったけど、阿部君が言うことに間違いなんてないし。



『!、マジで!?』



『う…ん…』



あぁ、眠い…



『いま…ら――ヤダは無し……な!』



『………うん…』



そうしたやり取りの数週間後。
オレは今、阿部君の部屋で暮らしている。






(、なんで?)



「三橋ーただいま〜」



「お、おかえりっ、」



何回やってもこのやり取りは慣れない。
阿部君の家に、オレが住んでる。
オレがいるところに、阿部君が帰ってくる。



「腹減った〜」



「今日は、オレも帰ってくるの、遅かったから、惣菜だけど、」



「じゅーぶんじゅーぶん。」



オレは、いつもなんで阿部君が一緒にいてくれるんだろって思う。
サヨナラの準備は始まりからもう出来てるのに、なんで。
それでも、いつまでだなんて考えてしまうのは、贅沢なんだろうか。




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