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誰も知らない


阿部の恋愛予想図は、いつだって純粋だった。
好きな人が出来たら、告白して恋人になって。
手を繋いでキスをする。
そうして結婚して、家族ができて―――
そんなふうに想像していた。






それなのに。



















汚い手を使ってでも手に入れたいなんて、思ってもみなかった。





誰も知らない










「三橋君、お菓子作ってきたの、食べて?」



「うお、どうも、です。」



部活中、フェンスの向こう側で会話する。
阿部には入り込めない世界。
もどかしい距離と気持ち。
壊してやろうと、荒々しく声をかける。



「三橋!
ミーティングすっぞ!!」



「は、いっ」



ピョンと三橋は跳ねて、阿部の方へ駆けてきた。
彼女から渡されたらしいバスケットを持っている。



「お前、それは篠岡に渡してこいよ。」



「そ、だね。」



去る間際に阿部は横目でチラリと見やると、彼女は阿部を睨みつけていた。
彼女は気付いているのだ。
阿部と自分が同じだということに。
三橋の肩を組んで密着すれば彼女は顔を歪めながら堪らないと向こうに走り出した。
彼女が帰るのに気付いた三橋は、阿部の腕を払った。



(え、)



「あっ、××さんっ
お菓子、ありがとぉっ!」




彼女は驚いた様子で振り向き、嬉しそうに微笑んだ。
三橋もホカホカと笑った。



「…振ったんじゃないのかよ?」



「うん、そうだよ?」



「じゃあなんでそんな優しくしてんだよ!
お前がフラフラしてっからあの女も諦めずにアピールしてくんだろが!」



三橋の笑顔が固まった。
阿部には理解出来なかった。
気持ちに応えられないのなら、突き放すべきだ。
それが三橋にも、彼女にとっても良いのだから。



「…オレ、好きな人いるんだ。」



「は?」



「だから、片想いの苦しさ、わかる。」



「それは“同情”だって言ってんだよ!」



頭に血がのぼる。
部員は何事かとチラチラ見始めるが、口を挟める雰囲気では無い。



「阿部君は、片想いしたことないから、そう言えるんだ。
好きな人からは、同情だって、欲しいんだ!」



「…っ、」



「阿部君、三橋君!!」



モモカンの叱咤が飛ぶ。
二人は外周を言いつけられた。
それで結局ウヤムヤになってしまったが、阿部は三橋にハッキリとして欲しかった。
それが三橋にも、彼女にとっても―――阿部にとっても良いのだから。







それからも三橋は色々な女の告白を断り続けた。
その度に阿部は不安で仕方なったが、三橋は片想いの相手に一途なようだった。



「…また断ったんだって?
告白。」



「うん。」



何事でもないように、三橋は答えた。
三橋はきっと好きな人ではなくては意味が無いのだろう。
それほどまでに、好きな人。



「…好きなヤツって、誰?」



「…、」



三橋は質問を無視した。
阿部はそれが気にくわない。
確かに知っても応援する気は無い。



「じゃあ、どんな外見してんの?性格は?
そんぐらいはいーだろ。」



「っ、」



三橋は躊躇った。
誰にも言ったことが無かった。
田島や泉にも、同じ問いを何度も尋ねられた。
それでも、言えない気持ち。
言いたい。
少しでも、伝えたい。



「黒髪、な人。」



「それだけじゃわかんねーよ。
可愛い系?キレイ系?」



「か、カッコイイ、よ。
すごく。」



阿部は思いを巡らせた。
三橋の傍にいて、黒髪でカッコイイ系の女子。



(…わかんねぇな…)



「阿部君は、もしオレが、協力してって頼んだら、してくれる?」



阿部は言葉に詰まった。
そんなこと、出来るわけない。
例え三橋の頼みでも。
阿部以外の人が三橋を幸せにするのなんか許せない。
三橋がどんなに片想いの相手を好きでも―――







「…協力、してやるよ。
大事なバッテリーの頼みならな。」



結局のところ、阿部には邪魔する権利は無い。
ただ、三橋が好きなだけ。
好きで好きで、誰にも渡したくないだけ。
告白なんて出来ない。
断られて、避けられたら。
三橋の傍にいれるなら、何だってする。
気持ちを押し殺すことさえも。



「……ありが、と。」



それは三橋も同じだったと知るのは、いつの日か。




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