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執事三橋


「隆也、誕生日おめでとう」



それはオレの10歳の誕生日だった。
豪華なケーキ、沢山のプレゼントに囲まれても、オレは全然楽しくもなんともなかった。



「ほら、こっちにおいで。
ほら、お前に誕生日プレゼントだよ。」



そこには蜂蜜色の髪をした同い年くらいの少年が立っていた。
確か伯父さんは商人で、表では外国から輸入するような仕事をしていた。
だけど裏では人身売買なんかもやっていて、きっとコイツもそんな所から来たんだと思った。



「この子はね、お前の役に立つ為にここに来たんだ。
今はまだ世話係や付き人でもすればいい。
だけどいずれ、お前も会社を継ぐ立派な社長になる。
その時に執事として使えばいいさ。」



伯父さんはそう言った。
目の前の蜂蜜色の少年はぺこりとお辞儀をして、たどたどしい喋りをした。



「はじめ、まして。三橋廉と、もうします。
けーやくにより、たかや様の、執事となるために、来ました。」



もう一度ぺこり。
三橋と言う名の少年は、にこやかに笑った。
何故かドキリと高鳴る心臓。
オレの中の何かが、変わり始めた。








「―――隆也様、お目覚めの時間です。
起きて下さい。」



あれ、なんだ。
スゲェ懐かしい夢を見てたな。
三橋に出会った初めての日のことだった。
あれから、もう10年も経つんだな。
すっかり執事の服装が板に付いた三橋がベッドの脇に立っていた。



「ふぁあぁ、はよ、三橋。」



「おはようございます、隆也様。」



オレは2年前に会社を継いで、社長となった。
一方三橋も完璧な執事でオレの右腕となった。
だけど、オレ達の関係は遠くなった。
無邪気に笑ってたのは、2年前まで。
気軽に話し合ってたのは、2年前まで。
愛し合っていられたのは、2年前まで。




オレが会社を継いだその日に、三橋は別れ話をしてきた。
もとに戻ろう、と。
主人と執事の関係に戻ろうと。
三橋は完璧な執事だ。だから私情は出さない。
一線を置かれる。距離をとられる。
急激な変化に、オレが戸惑うくらい。



「三橋、今日はキャッチボールしたい。」



「そのようなご予定は、本日入っておりません。」



ピシャリと言われ、部屋を出て行かれる。
後ろ姿のうなじに目が釘付けになる。
ああ、あの白い肌に触りたい。
触って、泣かせて、めちゃくちゃにしたい。
あの2年前のオレ達の立場が変わった日。
オレは後継者から社長へ。
三橋は付き人から執事へ。
最後にアイツに触ったのはあの日だった。
嫌がるアイツを押し倒して無理矢理、



なぁ、三橋。
オレはお前を見るたび、話すたびに欲しくなる。
お前のその甘い嬌声を思い出すたび、狂おしいほど激情にかられるんだ。








隆也様の目つきが変わるのをオレは知ってる。
獲物を目の前にして舌なめずりをする獣のような目だ。
その時は決まって性欲的なことを考えていると思う。
何で解るかと言うと、そういう性的な状況下のとき、いつも隆也様はあのような瞳をしていたからだ。
2年前まではオレだけが知っていた目。
今では―――…






「オイそこのメイド。
今日の夜オレの部屋にこい。」



「え、隆也様、」



「いいな?」



「はい……。」



隆也様は必ずオレのいる場で今夜の相手を誘う。
それはオレの当てつけ以外の何物でもない。



(まったく、隆也様は子供だ。)



最近隆也様のオレを見る目つきが怖い。
前までは、ふとした一瞬だけだったりして、きっと隆也様自身も自覚はしてなかったはずだ。
だけどこの頃、オレを見つめる視線が、ずっとあの煽状的な目なんだ。
纏わりつくような、熱を持った視線。



(先手をうたなければ。)



もう、辛いよ。







「隆也様、本日のご予定で変更があります。」



「ああ。」



「19時に隆也様の婚約者候補の方と会食がございます。」



「は?」



「メアリー・コスメ社のご令嬢ですのでご無礼の無いようお願いします。」



斜め45度のキッチリした礼をして、オレは隆也様の部屋を出ていこうとした。
その時だった。



ダァン!!!



突然肩を掴まれ、身体を反転されて壁に押さえつけられた。
扉がカチャンと鍵をかけられるのを聞く。



「隆也様、何のご用でしょう?」



「…っ、テメェ…!」



オレの、のうのうとした態度に隆也様はさらに機嫌を悪くしたみたいだった。



「ご用が無いのでしたら、失礼します。」



オレはにっこりと笑って隆也様の腕の檻から出ようとした。
だけども、押し返しても隆也様は動かない。



「会食に行かねぇ。」



「……ご冗談はお止め下さい。」



「行かない。もう決めた。」



「ワガママはいい加減になさって下さい。」



たしなめるけれど、隆也様はオレの言葉なんて聞いちゃいない。



「嫌だ。オレは婚約なんてしない。」



ジリジリと焼けるような瞳で隆也様は顔を近づけてくる。



「隆也様、」



「三橋とずっと一緒にいるんだ。」



「隆也様!
大人になって下さい!!」



腰を引き寄せられる。隆也様の熱を感じる。



(隆也様、勃…っ)



「子供だったらお前を抱きたいなんて思わないだろ?」



瞬間、口付けられる。
制止しようと開いた咥内に、熱い舌が入ってくる。
深く、深く。



「…ん、ぁ、お止め、下さ…っ、」



2年ぶりのキス。
力が抜けて、ずるずると壁に寄りかかりながら崩れていく。
隆也様はそれでもまだ足りないかと言うように、オレを追いかけた。



「っ…、…みはし…、」



「……隆也様…、ふ…」



隆也様の指がオレの肌を滑る。
カチャカチャ、ベルトの外す音が夢心地な世界の遠くで聞こえる。
オレの下肢まできた隆也様の手に気付き、ハッと我に返る。
それと同時に隆也様の身体を思い切り突き飛ばしていた。



「…隆也、さま。
……おふざけが、過ぎます。」



二人の荒い息使いが部屋に響く。
いつの間にか脱がされていた上着を整え、オレは部屋を出た。
隆也様が物を殴る音が部屋から聞こえた。

[*返球][送球#]
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