A FOOLISH LIE 5
「見ないで」と三橋は一言、呟いた。
オレは三橋の両腕を掴み、絶句した。
三橋の右肩には、あるはずのないものが…キスマークがあった。
「……コレ…」
オレが触ろうとすると、三橋はビクリと首をすくめた。
また怯えんのかよ、と思う反面、当たり前か、と思った。
「…ぁ…ぅ…」
「オレが付けたヤツだろ?」
「っ、」
「こないだ、酔っ払ってココに泊めさせて貰ったときにさ。」
三橋は俯いて、カタカタと小刻みに震えていた。
抵抗しないのを良いことに、右肩に唇を寄せる。
抱き寄せようとしたら、三橋はキッと強く睨んできた。
「…あの日、もしかしたら、そんなことあったカモ、しれない。」
「みは、」
「でも!
阿部君には、彼女サンがいて、……オレにも、いる。
…ちょっと、間違っちゃった、だけ、だろ?」
最後まで言われなくても、三橋が何を言いたいかわかった。
「忘れよう」ってことだ。
あの日の夜、三橋のマンションであった、全てのことを。
全て。
三橋の潤んだ瞳も、
三橋のしなやかな肌触りも、
三橋の赤い頬も、
三橋の息遣いも、
全て。
「…いやだ…」
「ふぇ?」
「嫌だ!
無かった事なんかにしたくねぇ。
お前にとっては思い出したくないことだったとしても、オレは…っ、」
「あべ、くん?」
「…ずっと、三橋を抱きたかった…!
高校生の時から、オレはお前が好きなんだ…
オレにとって、このキスマークは“間違い”なんかじゃねぇんだよ!!」
オレがそう言っても、三橋はかぶりを振るだけだった。
「もうやめて」と独り言のようにポツリと、何度も言いながら。
「どうしたら、信じてくれんの?」
「……っ、」
「なぁ、三橋、オレはどうすればいいの?
何したら、信じてくれる?
教えてよ。」
三橋はイヤイヤと目を瞑りなから横に頭をふる。
もう三橋の顔は涙でぐちゃぐちゃだ。
「で、てって…」
「三橋…?」
「出てって!!
阿部く、の顔っ、もぉ、見たく、ナイっ」
掴まれていた腕を払い、三橋は完全にオレを拒絶した。
オレは、フラフラと立ち上がり、部屋から出て行くしかなかった。
[*返球][送球#]
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