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A FOOLISH LIE 3



三橋のマンションに泊まってから1日経った。
普通に会社に通勤して、普通に仕事をする。
会社の歯車になって、セコセコ働く毎日だ。
こうやってオレの人生は過ぎていくんだろう。
平凡な日々。
だけど、引っかかることが、ひとつあった。



(…なんでアイツ、ビクついたんだろ…?
そりゃあ高校時代はよくあったけど、今じゃ笑ってくれるようになったし。)



悶々と考えてたから、名前を呼ばれたことに気づかなかった。
恋人で同僚の柳沢麗奈だった。



「阿部、何回呼んだと思ってるの?」



「はいはい、んでなに?」



「この書類に目を通しといて。」



渡されて、柳沢はさっさと自分の席に戻って行く。
会社では恋人同士の甘い空気なんか一ミリも出さない。
ま、オレも会社の人にバレたくねぇし。
柳沢は、仕事第一人間であんまり記念日とかイベントを気にしない。
そういうの、スゲー楽。
こっちも気ィ使わなくて済むし、メンドクセェもん。



(…あ、)



書類の間に挟まってた一枚の付箋紙。
そこには、柳沢から「今日、仕事終わったらアタシの家来てね」と端正な字で書いてあった。
ヤろう、ってことだろうな。
まぁ恋人から誘われたら普通、男は尻尾振って行くんだろうな。
でもオレは、何より、メンドクセェって感情が強かった。










「…阿部、帰るの?
泊まってけばいいのに。」



オレはもう玄関のドアを開けてあと一歩で出るところだった。
チッ、と心の中で舌打ちをする。
こういうやり取りしたくねェから柳沢がシャワー浴びてるうちに帰ろうと思ったのに。





「ん、そういうのだらしなくて嫌なんだよ。」



「…明日は休日なんだしいいのに。」



「しつこい!」



そう切り捨てると、柳沢は顔を歪めた。
泣かれたらマズいと思ってドアが全開にも関わらずキスをする。
宥める為のキスに、柳沢はすぐ夢中になった。
それに気をよくしたオレは、マンションの廊下を通った人物に目を見張った。



(…っ、みは…し…!?)



三橋はオレ達のキスシーンが何でもないかのような顔をしてマンションの渡り廊下を通り抜けて行った。
そして、どっかの部屋に入って行った。



「な、なぁ…あの部屋って誰が住んでんの?」



「…え?あぁ今男の人が入って行ったとこ?
あそこは…あたしと同じ年くらいの女の子が住んでると思う。」



キスの余韻に酔った柳沢はそう言って、またオレに唇を寄せてきた。
だけどオレはそれを躱してマンションから帰っていった。





この日、オレは柳沢の部屋に行って――――夕飯を一緒に食べただけだった。




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あきゅろす。
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