【春風】 芽吹いたばかりの若葉達が 小気味良く奏でる アンビエントに合わせ 私は小さな嗚咽を漏らす まだ冷たい春風が涙を拭い 火照った頬を撫でていく 新しい季節の中に キミだけがいない 隣で春を待っていた キミはもういない 振り返ると遥か彼方で キミは微笑みを浮かべ 大きく手を振っている 私は後ろ向きのままで 小さくなるキミの姿を 見つめるしか出来ない ふたりの間に吹く風は 冬の終わりを告げる使者 無慈悲にキミから体温を 奪っては去るばかりのみ どうかその温もりを 私達に返してくれないか どうかふたりのこの距離を 再び戻してくれないか 冷たい風は速度を増しながら 私を一瞥して新たな春を運ぶ 私は立ち尽くしたまま キミの居たあの場所を 目を細めて眺め続ける 隣には誰もいない [*前へ][次へ#] [戻る] |