[ボカロ/レン→カイ+リン]今度は嘘じゃない 「カイトにーさーんっ!!」 声が聞こえると同時に、背中にぼふっと圧し掛かられる感触。その可愛らしい声と、胃袋を締め上げるかのように回された細い腕からすぐに誰かは知れた。 「リ、リン…重いよ…」 なんとか首を後ろに回せば、案の定白いリボンが視界に入った。 「重いなんて失礼じゃない!ミクだったらそんなこと言わないのに!」 「そもそもミクはこんなことしないってば」 全体重を掛けられてよたよたしていると、ぱっとリンの身体が離れた。今度はその反動でまた足下がふらついたのは、見なかったふりをしてくれたらしい。 「まあいいけど…」 「…それで、どうしたの?何かあったの?」 ぶすっとむくれるリンの頭を撫でると、彼女は思い出したようにぽんと手を叩いた。 「そうそう。あのね、マスターがコンビニ行くけど何か欲しいものないかっ」「ハーゲンダッツのクッキー&クリーム」 「……わかった」 潔いくらいに即答すると、はぁあ、と深い溜め息が聞こえた。…何かおかしなことを言っただろうか。 「兄さん、そんなにアイスばっかり食べてると、今にお腹出てきちゃうよ」 呆れたようにそう言いながら、彼女はさらさらと手元の紙に何か書き付けていた。きっと、皆の欲しい物を聞いてメモしてくるように言われたのだろう。 「う…だ、大丈夫だってば!」 「どうだか〜。じゃ、行ってくるねっ」 言うが早いか、リンは来た時と同じように物凄いスピードで階段を駆け下りて行った。ようやく嵐が去ったとほっとしつつ、数十分後には本日の初アイスに巡り会えると思うと顔が綻んだ。 マスターが先日くれたCDに聴き入っていると、音楽に混じって忙しない足音のようなものが聞こえた気がした。 まだ五分も経っていないから、マスターが帰ってきたわけでもないだろうし、ミクはこんなに落ち着きなく走り回ったりしないだろう。 首を傾げていると、ばんっと部屋の扉が開けられた。 「カーイトにーさーんっ!!」 「うわっ!?」 どさっと背中に何かが圧し掛かる…あれ?いや、これは今日二回目の光景のような気がする。臓器を圧迫するかのように腹に回された細い腕も、この声も。 「リ、リン?」 「うん?」 振り返ると、やっぱりそこには金髪と蒼い瞳、それに白いリボンがあった。 「どうしたの?マスターと出かけたんじゃ…」 「えっ?マスターがコンビニ行くからとは言ったけど、私が行くとは一言も言ってないよ」 …言われてよくよく思い返してみれば、確かにそうだ。 「そ、そうかもしれないけど…いつもだったら、そう言ったら必ず君とレンとマスターで行くじゃない」 マスターは極めつけの出不精で、たまに近所のコンビニにふらっと出かけると一気に物資を買い込んでくるため、必ず二人の荷物持ちを要するのだ。 僕も何度か行ったことはあったけれど、悔しいことにどうも体力も腕力もリンとレンの方があるらしく、その内いつも留守を任されるようになった。 「今日はあんまり量買ってこないんだって。だからミクが行ったよ」 「え…そうなの?」 言われてみれば、さっきから彼女の声が聞こえない。だから納得は出来たけれど、なんだか腑に落ちなかった。 「…だったら僕に声かけてくれてもいいのに…」 俯くと、首に腕を回すようにして、リンがすぐ横に顔を出した。 「だってカイト体力ないんだもん」 「でもミクよりはあるよ、多分」 「夏にマスターの田舎行った時、一人だけ道で倒れたじゃない」 「あれはあんまり暑かったから…!」 そのことを思い出したら、また気分が沈んできた。…背は一番高いのに、体力が一番無いなんて。 「…はぁ…情けない…」 「別にいいじゃない?その方が可愛いよ」 「うん、可愛……はい?」 思わず目を合わせると、僕より大分色の薄い蒼い瞳が嬉しそうに細められていた。 「…今なんて言ったの?」 「ちょっと貧弱なくらいの方が可愛いと思うよ」 「いや、貧弱って…それに可愛いのは君の方でしょ?女の子なんだから」 先程と同じようにぽんぽんと頭を撫でると、リンの顔が顰められた。むくれていると言うよりは、どこか悲しそうだ。 「…?リン?」 彼女はそのまま何も言わずに、すっと身体を離した。 「……もうちょっとね、自分の魅力とかに気付いた方がいいと思うな…」 「……へっ?」 はぁ、と溜め息を吐いて、リンは開け放たれたままの扉の方へ心なしかとぼとぼと歩き出した。 「ちょ、ちょっと…リ、」 名前を呼びかけた途端、彼女が振り返って自分の唇の前に人さし指を立てた。思わず言葉を切って、塞ぐように口に手を当ててしまう。 すると彼女は微笑んだ。無邪気なようで、どこか寂しげな、見たこともないような表情だった。 「うん、やっぱりカイトは可愛いよ」 リンはおもむろに頭の白いリボンを取ると、下ろしていた髪をそれで一つに括って、今度は悪戯っぽく笑った。 …… ………ん? [今度は嘘じゃない] そう言って、僕が声を上げるより先に、レンは扉の向こうに消えていった。 ―――――― 元々、共通お題で別ジャンル作品シリーズの一つとして考えたものだったので、最後のレンの台詞もとい題名がちょっと不自然です。 二回目のリン=レン。買い物には代わりにミクが行ったというのは本当なのですが、カイトが思ってたのとリンとレンが逆でした。 カイトが圧し掛かられた時に体重の違いに気付かなかったのは、その日同じことを先にやられていたので、どうせまたリンだろうと先入観で無意識に考えてしまっていたからです。 二回目のリンはカイト兄さんorカイトですが、本物のリンはカイト兄さんor兄さんです。喋り方も違います。 090328 [戻る] |