「たまには素直に」 シャワーから上がって寝室へ向かうと、既に夢の中だろうと思っていた彼が意外にもまだ身体を起こしていた。 「おや、まだ起きていらっしゃったんですか?」 僕より先にシャワーを浴びた彼は、やや眠そうにしながらも膝を抱えてベッドの上に座り込んでいた。 寝ていてくれても良かったのに、と髪を拭きつつ思っていると、 「……お前が出てくるの待ってたんだよ、悪いか」 やや紅のさした顔で、照れたように彼が呟いた。 ともすれば聞き逃しそうな程小さな声だったが、僕の耳にはしっかり届いた。 …どうしよう、あぁすごく嬉しい!愛しいです! 思わず頬が緩んでしまう。 「そうですか、ありがとうございます」 「……別に」 俯く彼に、飲みますか?とペットボトルを渡すと、無言で頷いてそれを受け取ってくれた。 「間接キスですね」 ぶっ!と噴き出す音と、盛大に咳込む音が聞こえる。 「おっ…お前な!何今更そんな…!あんなことまでしといて、」 そこまで言って、彼は急に固まって、ますます顔を赤くした。 「…あんなこと、ですか?」 「〜〜〜ああもう煩い!ほらっ寝るぞ!!何時だと思ってんだ!」 早口にそう言うと、彼は頭から布団を被ってこちらに背を向けてしまった。 ああ、機嫌を損ねたかな… 「…キョンくん」 「………」 隣に入って呼びかけてみるが、返事はない。本格的に怒らせてしまっただろうか。 「こっち向いてくださいよ」 「…断る」 彼の髪を撫でながら何度話しかけても突っ撥ねられてしまう。 正攻法ではだめらしい。 …このまま眠ってしまうのは、寂しい。 そう思った僕は、申し訳ないが少々卑怯な手を使うことにした。 「……?古泉、どこ行くんだ?」 急にベッドから出た僕に、彼は少し不安そうな声をあげた。 そんな仕草のいちいちがどうしようもなく愛しい! 「えぇ、居間に… 僕、今日はソファーで寝ます」 「…え?」 そう言って寝室の戸を開けると、いよいよ彼は慌てだした。 「ちょ、古泉! 待て、意味がわからん、理由を話せ」 シーツの捲れる音と彼の足音が聞こえる。 「…機嫌を損ねてしまったようなので。 すみません」 苦笑して振り返ればすぐ後ろに彼がいた。 不安そうな、寂しそうな、悲しそうな顔だった。 「…何言ってんだよ」 次の瞬間、彼は僕に抱き着いてきてくれた。 さすがにそこまでしてくれるとは思っていなくて、僕は驚きを通り越して少し焦ってしまう。 「き、キョンくん?」 「…ごめん」 掠れて今にも消え入りそうな声だった。 「怒って、ないから… だから、ここに居ろ」 彼の顔を見たいが、ぎゅっと抱き着かれているこの状態ではそれは叶わなかった。 「…いいんですか?」 「居ろって言っただろ、お前に拒否権はない」 いつも通りのつんけんした態度に、思わず笑みが零れてしまう。 すると、笑うな、と言う恥ずかしそうな声が聞こえ、腕の力を強められる。 「キョンくん」 「…何だ」 「顔見せてください」 お願いします、と言うと、彼はゆっくりと身体を少し離し、こちらを向いてくれた。 ……… …一瞬思考がフリーズしそうになった。 上目遣いで見上げてくる彼の顔は真っ赤で、心なしか目が潤んでいる。 「……何だ」 じっと見つめていると、彼からやや不機嫌そうな声があがった。 「いえ…可愛らしいなぁと思いまして」 てっきり怒鳴られるか最悪殴られると思ったのだが、彼の反応はあまりにも意外だった。 「………そうかよ」 そっぽを向いてしまった彼が、あまりにも愛らしくて。 思いきり抱き締めると、苦しいと小突かれてしまった。 「好きですよ」 相変わらずそっぽを向いたままの彼に言うと、 「……うん」 珍しく素直な返事が聞けて。 それがまた嬉しくて、触れるだけのキスを落とした。 07.08.21 08.03.26修正 |