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ぼくに会いたい?(無関心赤+緑)
【暗くはない/ニアホモ】






「あの、グリーンさん。なんか、表にラブレター付きのバタフリーが来てますけど」
 ジムのエリートトレーナーの一人が部屋の扉を開けるなり、叩き出したくなることをのたまった。
「虫取り少年に好かれる覚えはねーよ!」
「いやそれが……、手紙を取ろうとしたら抵抗されたんで、じゃあバトルしようかと思ったんですけど……」
 半開きだった扉が全開にされると、そいつの後ろにもぞろぞろと三人四人のエリートトレーナーがいた。どいつもこいつも、面目ないような、落ち込んだような面差しだ。……まさか。
「トレーナーもいないバタフリー一匹に負けたとか言うなよ?」
「……リーダー、あれ多分、野生じゃないですよ」
「そんなのはわかる、けどトレーナーはその場にいないんだろ?」
「いやもう、なんていうか……レベルが違う、としか……」
「わかったわかった、俺が行くから、お前らポケセン行っとけ。今うっかり挑戦者でも来たらどうするんだ」
「うう、すみません……」
「グリーンさん、お願いします!」
「任せとけ、つーか俺の知ってるバタフリーより強いバタフリーなんていないからよ」
「……は?」
 エリートトレーナーどもの肩を一人ずつ叩くと、俺はボールを確認してジムの出入り口へ向かった。


 三年前のポケモンリーグ、チャンピオンの座をかけたレッドとの勝負。あれほどの接戦は今まで他になかった。お互い六匹使用のフルバトルで、最後の最後、俺のオニドリルはあいつのバタフリーに倒された。共に最後の一匹という状況で、相性有利からの油断もあったと思う。
 あいつが最後に残したのが、最初に貰ったピカチュウでも、五百円で買わされたとぼやきながら結局進化するまで育て上げたギャラドスでもなく、バタフリーというのが意外だった。
 ああ、そういえば、初めて自分の力で捕まえたポケモンだって言ってた気がするな。実際何度か道中戦ったときも、あのバタフリーの状態異常や特訓したとかいうサイコキネシス(ポケモンタワーで努力値がどうこうと言っていたような……)に、何度煮え湯を飲まされたか知れない。
 弱点を分析されるだろと言っても聞かずに、あいつはいつも俺に楽しそうに自分のポケモンの武勇伝を語った。というか、それ以外のことを話した記憶がほとんどない。
 ……俺も俺で、捕まえたポケモンについてべらべら喋っていた気がするが。


 ともかく、俺がたかが弱小虫ポケモンに対して本気で敬意を表したのは、レッドのバタフリーが最初で最後だ。


「…………おい」
 俺の呼びかけに、可愛らしく小首(?)を傾げるバタフリー。
 ポケモンなんてみんな見た目は同じだって? お前、自分が飼ってるペット見てもそう言えるのか? 違うんだよ同種でも、特に人間が育てたやつはな。
 見間違うはずもない、この平常だと両方ともやや右に曲がった触角、左の方が黒い部分がやや大きい下の羽。標準サイズよりよく見ると若干小さい体。忘れもしない、俺がそれに気付いたとき、お前がトランセルの内からバトルで酷使したから殻の中で成長しきれなかったんだろとレッドをからかったら、このバタフリーは俺に蹴りを食らわせてきた。
「お前! レッドのバタフリーだろ!!」
 バタフリーはわかっているんだかいないんだか、こくこく頷くような仕草を見せると、手紙らしきものを俺の胸にぐいぐい押し付けた。
「ったく、これじゃウチの連中が勝てないわけだ……って、レッドのバタフリー? お前、レッド、生きてんのか!?」
 訊いたところで答えられるはずもなく、じっと手紙を見るバタフリーの視線に耐え切れず、諦めて開封することにした。
 あいつがまさか自分から人間に干渉するなんて、俺に手紙を寄越すなんて、そもそも生きていたなんて、もうどこから驚いていいのかわからない。
 けど、よかった、生きてたんだな? 生きてるんだな?
 もつれる手で開けた封筒の中には、一筆箋が一枚だけ入っていた。

“ぼくに会いたい?”

 相も変わらず筆圧の弱そうなふらふらした線で、十歳の誕生日に俺の姉ちゃんがやってからずっと使っていた万年筆で書かれた、レッドのへったくそな字だった。

“会いたいなら、その子に案内させて”

 ……なんだか一気に力が抜けた。
 三年間、生きてるのかどうかもわからなかった。チャンピオン戦の後、急にぷっつり連絡が取れなくなった。ジョウトの方に行ったんじゃないかなんて情報が最後で、通信機器も持たずに、情報に対して頓着しないレッドは正真正銘行方知れずになった。
 あいつ、自分が生きることにすら関心薄かったからな、なんて考える夜がなかったわけじゃない。俺ですらそうなんだ、あいつの母ちゃんなんてどれほど心配してるか。
 ……もしかして、あまりに時間が空いたからいきなり家に帰るのが嫌で、まず俺に連絡取ってきた?
 ああ、もう、なんでもいいや。


「あ、グリーンさん! 勝てました!?」
「ん、ああ、俺ちょっと何日かジム空けるから。あと頼んだ」
「えっ!?」
「どういうことですか!?」
「バタフリー一匹に壊滅させられた我々だけでジムを守れと!?」
「あー、もしお前らみんな負けたら、地震の技マシンでも渡して帰ってもらえ」
「無茶ですよそんなの! あっ、ちょっと!」
「駄々こねられたら不思議なアメかポイントアップでもつけとけ! 行くぞ、オニドリル!」


 ああくそ、どうしよう、嬉しい。あのバカにまた会える。死んでなかったんだ。
 ったく、昔からいつもいつもこうだ、お前がなんにも関心がないせいで、全部しわ寄せが俺にくる。いい加減にしてほしいもんだ。


「俺ばっか関心持って気にかけてるなんて、片想いみたいだろ、ふざけんなよ」


 面倒くさい幼馴染持ったもんだぜ、ホント。
 ……まあでも、学校のノートも取りたがらなかったのにわざわざ筆を取った時点で、レッドにしちゃ結構なことかな。


 会いたいよ、会いてーに決まってんだろ! そんでまず、どこほっつき歩いてやがったってぶん殴ってやるからな、レッド!!




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