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音も姿も色もない終焉の話(GB金+銀+水晶)
【電池切れ/世界の消滅/他の話と繋がりなし】


“ゲームボーイのなかのおはなし”






「もうすぐ消えるぞ、俺たち」
 オーダイルを連れて現れた赤い髪の少年の言葉に、二人は顔を見合わせた。
「……シルバー、お前も冗談とか言うようになったの?」
 メガニウムを撫でながら赤いパーカーの少年が笑う。シルバーと呼ばれた目つきの鋭い少年は、黙って首を横に振った。
「本当の話だ。……ああ、お前らは“主人公”だからわからないのか。もう世界が薄くなってる、そのうち消える」
「シルバー……何、わかんないよ」
 バクフーンの傍らに立つ不安そうな少女を見ると、シルバーはその首からさげたポケギアを指さした。
「時計、だいぶ狂ってるだろ」
「そ、うだけど……けど、それが」
「関係あるんだよ。俺にはわかるんだ、……“プログラムの一部”だから」
「は、はあ? お前ほんとどうし……」
「ゴールド、クリスタル。本当のことなんだ、お前ら二人以外はみんなわかってる。お前も俺も、家族も、ポケモンも、町の住民も……この世界自体が、消えるんだ」
 赤い長い髪が風に揺られたのを、二人は呆然と見つめていた。
「……もう、電池が切れる」
 二人には、その言葉の意味はわからなかった。ただ、かつてのライバルであり今は友人である彼が嘘をついているわけではないこと、馬鹿げた消滅宣告が本当のものであるらしいことだけは、理性の前に肌で感じ取っていた。


「お前も、消えんの? 俺も? クリスタルも?」
「家族も、知り合いも……町にいる人間もトレーナーも全員、いや、だから言っただろ。世界が丸ごと消えるんだ」
「……なんで? どうして? 私たちなにか悪いことしたの?」
「なんで俺たちが消えなきゃならないんだよ、なあ」
 自分の手をそれぞれとって、思いつめた声で縋るように見つめる二人に、シルバーはやりきれなかった。
「知らなかったのは、お前らだけなんだ。……ともかく、そういう仕組みなんだよ……元々な」
「仕組みって……消えることがわかってて、この世界を作ったとでも言う気かよ」
「そうだな」
「だからなんでだよ!?」
「……足りなかったんだよ、何もかも……技術も容量も、説明も……」
 シルバーが苦々しく吐き捨てると、二人は急に力が抜けたように手を放した。ゴールドは俯いて拳を握った。足に力が入ったのか、砂地がジャリッと音をたてた。立つべき地面はまだそこにあった。


 へたりこんだクリスタルは、大きな瞳からぽろぽろ涙をこぼし始めていた。
「……じゃあ、どうして、なんで私たちは、生まれてきたの? 消えるために生きてきたわけじゃないよ……二人と、色んな人と出会ったわけでも、これまでこの子たちと一緒に冒険してきたわけでもないよ……!」
 ぎゅっと腰から外したボールを握って嗚咽を上げるクリスタルを見下ろして、ゴールドは苦しそうに呟いた。
「……なんとか、できないのかよ。止める方法とか」
「一応……あるにはあるが、この世界の中からはどうしようもできない」
「は……」
「外からやるしかないんだ」
「なんだよそれ……じゃあこのまま、消えるまでジッと待ってろって? 消えるってわかってるのに?」
 シルバーは答えなかった。ゴールドの顔があまりにつらそうで、思わず視線を逸らした。
 クリスタルと背中を合わせるように座り込むと、ゴールドもじっと自分の手持ちのボールを見つめ、膝の上に並べて抱きしめた。
「……ヤだな、消えるんだってさ。……ごめんな、せっかくここまで強くなってくれたのに。俺がヘタだったからかな、もっと上手くやれれば、こんな風にならなかったのかな」
「違う、それは関係……」
「シルバー、お前ともせっかく友達になれたのにな」
 無理に作ったような笑顔を向けるゴールドに、シルバーは唇を噛みしめた。オーダイルとメガニウムとバクフーンが、心配そうに幼い主人たちに擦り寄った。
「よしよし……消えたくねーな……はは、ヤだな、死ぬならまだしも、消えるってなんだよ……」
「私も嫌だよ……悪いとこあったなら、全部直すから……消えたくないよ……またこの子たちと色んなところ行きたいよ……二人とポケモンのこと話したりバトルしたり、一緒に遊んだりしたいよ……」


 音も気配もなく、終わりがそこまで近付いていた。シルバーにだけはそれがわかったが、二人を見るととても口には出せなかった。
「おてんばなこともしないし、料理も手伝うし、お母さんが買ってきた服も子供っぽいなんてワガママ言わないで着るから……」
「俺が弱かったから? シロガネ山のあの人に勝てなかったから? そうなら……もしそうなら、次は頑張るから、絶対勝つからさ、だから……」
「……もういい、もうやめろ、……やめてくれ……!」
「お前は消えたくないのかよ!?」
 シルバーに掴みかかろうとして、ゴールドはハッとしたように手を引っ込めた。
「……や、ごめん。お前だってしんどいよな、見りゃわかるよ……ごめん」
「……ゴールド」
「はは、次生まれてくるときは、もうちょっと大人しくなった方がいいかな、俺」
 それきり三人は黙り込んだ。シルバーも座り込むと、三匹のポケモンたちも身を寄せ合った。


「あとどのくらいで消えんの」
「もう、そんなに」
「……母さんに会っておけばよかったな」
「私も……泣いてないで何かすればよかった……バクフーン、おいで」
 クリスタルがバクフーンを抱きしめると、ゴールドも倣うようにメガニウムの頭を抱えて少し乱暴に撫でた。シルバーも少し迷って、オーダイルの鱗にそっと触れた。反対の手は二人に伸ばしかけて、結局引っ込めた。
「明日、カントーの方に出かけようって言ったけど、ダメになっちゃったね」
 気にしてないという風に擦り寄るバクフーンに、クリスタルは泣きはらした顔で微笑んだ。
「でも、楽しかったよ、みんなと一緒にいられて……」
「俺も楽しかった。図鑑貰って、コイツ貰って、あちこち旅できて……ほんとに、楽しかった」
「シルバーは? ワニノコと一緒にいて、私たちとケンカしたりバトルしたり……そういうの、楽しかった?」
 シルバーは二人の顔を交互に見て、視線を逸らした。先ほどから風が止んでいた。
「“システム上”は、お前らがそう思ったならそれでいいんだよ。……けど、まあ……楽しかったよ、俺も」
 それを聞いて、今度はゴールドの目からぽろっと涙がこぼれた。
「そっか、よかったな、よかったよ、ホント……だってお前、家族もいねーって言うし、家もないって言うし……」
「そんなの……それは、俺が決めたことじゃないんだから仕方ないだろ」
 泣きながらゴールドが、シルバーとクリスタルを一緒くたに抱きしめた。クリスタルもつられてまた目を潤ませながら、二人の背中に細い腕を回した。
「消えちゃうのすっごく嫌だけど……もし次があるなら、今度はシルバーにも家があって、家族がいるといいよね。それで、また三人でポケモンの話して、バトルして、時々ケンカして、仲直りして一緒にご飯食べたり、そういうのできたらいいよね」
「な。そう思ってないと、やってらんねーよな……」
 シルバーはぎゅっと拳を握り締め、近すぎてよく見えない二人の顔を見ようとしたとき、初めて泣きたいような言葉にしたくない衝動にかられた。
「……そうだな、そうなったら、いいな」
 ほどいた手のひらが二人の肩を抱いた感触がした。
 それが最後だった。地面が消える感覚もなかった。
















(To be continued./Heart Gold and Soul Silver)


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