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あなたがここにいてくれるように祈っていました(SPカントー/死亡if)
【第三章終了後にシロガネ山でレッドとゴールドが事故死した二重の死亡if】






「シロガネ山にね、出るんですって」
 急にジムを訪れては一方的に世間話をしていたブルーの突然の転調に、グリーンは面食らった。ある事故以来、忌避していた単語が不意に出されたせいもあった。
「何が?」
 ブルーは抱き上げたエーフィの頭を撫でながら、彼女にしては非常に珍しく、淡々と口を開いた。
「赤い帽子の少年トレーナー」
 そう短い付き合いでもない。ブルーがふざけて言っているわけではないことは一目でわかった。
「……まさか」
「あたしが見たわけじゃないわ。そういうウワサがあるだけ」
 思わずグリーンが視線を合わせると、ふだん明るく輝いた瞳は、悲しさというよりはもどかしいような切なさをはらんでいた。
「……ピカチュウと、ニョロボンと、フシギバナを使うって」
 二人は同じものを思い浮かべて、苦々しく唇を噛んだ。




 リザードンの背からシロガネ山を見下ろして、グリーンは自分の想像が裏付けられていくのを確信した。
 随所で岩が抉られ、山肌が削られている。それに加えて、普段はありありと漂っているここの野生のポケモン特有の殺気が、まったく感じられない。


 そのまましばらく上空を移動し、目的の場所に近付いてきた。
 ふと、山に不釣合いな色が視界を過ぎった気がした。よく目を凝らし、グリーンは背筋が凍る感覚がした。
 赤だ。
 赤い帽子と、赤い服だった。
 気のせいだと思った、錯覚だと言い聞かせた。何度も目を擦り、駆るリザードンにも問いかけたが、やはり赤い姿はそこに確かに存在しているらしかった。
 思わず片手の花束を強く握り締めると、グリーンは目指していた崖に向かってリザードンを加速させた。




 赤い姿は、まさにその崖に立っていた。近付いてハッキリとわかった、それは間違いなく、かつてこの山に消えた親友のものだった。
 首筋を嫌な汗が伝う。見間違いではない。確実にそこに、誰かがいる。降り立ったことはわかっているであろうに、グリーンには背を向けたままだった。出会った頃の親友とそう変わらない体格のはずなのに、どうもそれが似合っているようには見えなかった。
 泣きたくはならなかった。ただ、自分にはどうしようもできなかった過去を、どうしようもできない現在を、悔やみはしなかったが心の底から受け入れることもできなかった。
「……もう、いないんだ」
 グリーンの言葉に反応するようにして、手袋をした手が、腰のボールに手をかけた。
「オレだって、認めたくない。……今だってまだ、心のどこかでは受け入れきれていない。ただ、オレたちは現実を認めなくちゃならない。そうやっていつかは、受け入れなきゃならない。乗り越えて、成長しなきゃならないんだ。それが人間なんだ。生きている人間がすることなんだ」
 赤い姿は、ボールから手を離すと、おもむろに振り返った。来訪者の姿を認めて赤い帽子を取ると、一つに括った金髪が風になびいた。
「そうだろ、イエロー」
「……そうですね、グリーンさん」
 疲れたように表情を緩めた彼女につられてかすかに微笑むと、グリーンは崖先に歩を進め、二人分の花束を幽谷の底へ手向けた。






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