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逆流性食道炎(円風)
【※そこそこの嘔吐描写/円堂やばい】






「う、えうっ、ぐ、おえぇあっ」

 風丸は毎朝吐く。学校に着いたとたん下駄箱に荷物を放り出して便所に駆け込んで、朝飯を全部吐く。わかってるなら食わなきゃいいのに、作ってくれる親に悪いからって無理して食って、結局吐く。

 俺は黙って風丸の鞄を拾って、個室までついていく。ドアを閉めて鍵をかけてやる。風丸は俺以外の人間に、このことを絶対に知られたくないらしい。

 便座カバーを上げてタンクに手をつくと、風丸はおえっとえづいた。形がはっきりわかる胃の内容物が、食道をどっと勢いよく逆流して、便器の中に真っ直ぐに落ちていった。あーあ、今日はトーストか。量がありすぎてかえって飛び散らない。胃液の臭いが鼻につく。俺は一度水を流して、風丸の背中をなるべく優しくさすった。

「えんど……ごめ、うっ」

 風丸は口を開いたそばからまた吐き始めた。流したばかりの便器の水が、トーストの上に乗せられていたらしい目玉焼きの黄身の色になっていた。

 四回ほど吐いてやっと大方出し終えたらしく、風丸は五回目には胃液と唾液と口の中に残っていた食材のカケラだけを便器に落とした。俺はトイレットペーパーを巻き取って風丸の口許に持っていく。風丸はそれでとりあえず口を拭うと、顔を上げて俺に向き直った。

「円堂、おれ……」
「いいよ。気にすんな」
「……ごめん」

 頭を撫でると、風丸は俯いて口をもごもごさせた。口の中が気持ち悪いんだろう。他の奴らが来る前に手洗い場ですすがせてやらないと、風丸は授業が始まって校舎が静まりかえるまでここから出ようとしなくなる。

 後から入った俺が先に出て、人気のないことを確認して手招きする。風丸はおぼつかない足取りで個室から出て洗面台の前に立つと、口の中を執拗にすすぎ始めた。何分間もそうしていた。

 水の音が止まって風丸が顔を上げる頃を見計らって、風丸の鞄のポケットからハンカチを出して手渡した。風丸はか細い声でありがとう、と言って受け取って、口や手を念入りに拭った。

「鞄、ありがとうな」
「ああ、平気か?俺、教室まで持ってくぜ」
「いや、いいよ。大丈夫」

 鞄を肩に掛けてトイレを出ると、風丸はもう普段の顔になっていた。途中で朝練を終えたらしい陸上部の後輩に会った。あっおはようございます風丸さん、おはよう宮坂練習熱心だな、はい風丸さんもサッカー頑張ってください応援してます、ありがとうそれじゃあまたな、はい失礼します。

「じゃあ円堂、また後で」
「ああ!昼一緒に食おうぜ」
「わかった。授業中寝るなよ」

 そして風丸の教室の前で別れた。


 俺は授業も聞かずにずっと風丸のことを考えていた。朝の風丸のことを考えていた。風丸が吐いたことを考えていた。あの綺麗な顔であんなものを毎朝吐き散らかす風丸のことを考えていた。


 俺はしばらく朝練に行っていない。風丸に付き添うために。俺は風丸に、どうしたんだ?と聞いてやらない。俺が風丸の支えにならないように。俺は風丸に、具合が悪いときは仕方ないさ、と言ってやらない。風丸が罪悪感に苛まれるように。俺は風丸に、部活には参加するのが当然だという風にしか振る舞ってやらない。風丸に心理的な負担を与えるために。俺は風丸のそばから離れてやらない。風丸に吐かせるために。


 あの綺麗な顔から、醜い吐瀉物が吐き出されるあの光景を、俺は何度も何度も何度も再生した。いつだって便器の汚れ具合も胃液の臭いも苦しそうな呻き声も鮮明に思い出せた。


「せんせー!ちょっとトイレ!」
「そういうのは休み時間に済ましとけ円堂!ったく……ほら、行ってこい!」
「はーい!」


 朝、風丸が俯いて吐いていた個室に入ると、俺は痛いくらい張りつめたペニスを取り出して、あの光景の再生を続けながらひたすらそれを慰めた。




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