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賢い馬鹿(鬼道←不動)
【FFIアジア予選期間中/とてもシスコン】




「……鬼道くん? どうしたの?」
「ああ、いや……木野、春奈を知らないか?」
「音無さんならさっき粉ドリンク買いに行くって……あれ? もう三十分くらい経つんだけどな、まだ戻ってないみたい」
「そうか……わかった、ありがとう」

 各人それぞれ木陰に座り込んでの休憩中、鬼道は見当たらない妹のことを気にかけていた。
 合宿所まで戻って携帯で連絡を取ろうかと考えた矢先、ベンチの上にその当人の携帯が置き去りにされているのを見つけてしまい、木野に声をかけるに至ったのだ。

 どこをふらふらしているのかと鬼道が嘆息して周囲を見渡しても、レンズ越しの強い日差しに目を灼かれる思いがするだけだった。


「よお、鬼道ちゃん」
「……なんだ。何か用か」

 多少、気が立っているという自覚はあったらしい。いくら相手が不動といえども、いきなりこの切り返しもないだろうと思い直し、鬼道は改めて口を開いた。

「すまない、……不動、春奈を見ていないか?」
「音無ぃ? さっきから妙にピリピリしてると思ったら、そんなことかよ」
「そんなこととはなんだ! まさか不動、お前何か知って……」
「知らねェーっての! 言いがかりも大概にしろよ。シスコンが過ぎるんじゃねえの、鬼道ちゃんよぉ」
「なんだと!?」

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!」

 鬼道があわや不動に掴みかかるかというところで、焦った声がそれを止めた。二人とも一斉にそちらを見る。鬼道が穏やかでなかった要因だった。

「春奈……どこに行っていたんだ」
「ドリンクの買い出し! 木野先輩言ってなかった?」
「にしては遅いだろう」
「ごめんね、途中で同じクラスの子たちとバッタリ会っちゃって、ちょっと立ち話してて……それだけだよ、何もないから」

 鬼道はほっと安堵の息をついた。どうも兄は自分に過保護ではないかと、春奈はこっそり肩を竦めた。

「へっ、せいぜい仲良く兄妹ごっこでもしてろよ」
「……不動、貴様」
「お兄ちゃん!」

 拳を握り締めた鬼道の前に春奈が割って入ると、不動は兄妹を一瞥して立ち去った。


「なんなんだ、あいつは一体……」
「……お兄ちゃん、不動さんきっとお兄ちゃんと仲良くしたいんだよ」
「仲良く? 不動が? あり得んな」
「どうしてそんなに喧嘩腰なのかなぁ…… 不動さん、試合中とかもよくお兄ちゃんの動き気にしてるよ。お兄ちゃんと不動さんが協力できたら、きっとすごいプレーができると思うのにな」

 兄を案ずる妹として、チームを中立的に見守るマネージャーとして、真っ当な意見だった。

「……行くぞ、春奈。そろそろ練習再開だ」
「あっちょっと、お兄ちゃん! ……もー」


 鬼道は理解できても認めたくなかった。不動が自分に並ぶほどの卓越した実力と洞察力を有していることも、決して自分のことを嫌っているわけではないということも。


「何が司令塔だよ。これじゃあてめえの妹の方がよっぽど賢いぜ」


 フィールドですれ違った時の嫌味な台詞も、鬼道は聞こえなかったことにしておいた。




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