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[モブ→杏/百合]言葉にならない“愛してる” 2-1

「…あの…竜ヶ峰君と紀田君は、先に帰りました」
「え」

 杏里から告げられた言葉に、同じ制服のポニーテールの少女は目を見開いた。

「えっ、あのーなんでまた?」
「さあ、詳しくは……なんでも、男と男の話し合いがあるそうで…」

 ――紀田が余計な気ぃ回したか。
 調子のいいクラスメイトの顔を思い浮かべ、少女は溜め息をついた。杏里と二人で帰れることはもちろん嬉しい。だが、この状況は少女にとって本意ではなかった。
 竜ヶ峰帝人も園原杏里を好きだから。加えて通常、生き物は異性にしか恋をしないものだから。

 少女は杏里が好きだ。そして、帝人と杏里が上手くいくことを誰より強く願っていた。
 それは紀田正臣にも言えることだったが、彼の場合は帝人と少女の両方を応援している。これは少女にとって頭の痛い話だった。

「男と男のねぇ。まっ、どうせ紀田がどっかに竜ヶ峰を引っ張っていったんだよね。いつものことさ、いつものこと。ねっ」
「そう…ですね」
「まぁまぁ、じゃあこっちもたまには二人で帰ろうか!杏里さん、この後予定とかあったりする?」
「…いえ、特には」
「そっか!じゃあさじゃあさ、なんか食べて帰らない?…あの別に、暇で財布に余裕があったら且つ昼飯買うの忘れて挙句晩飯のアテもない私に付き合ってくれる気が一割二分三厘でもあれば、でいいんだけどさ」

 ――…なんか、ノリがあのクラスに染まってきた気がするなぁ。
 自分より十cm以上背の低い杏里が伏目がちに逡巡するのを見て、少女は緊張で突拍子もないことを口走りそうな自分を抑えるのに必死だった。
 杏里は、話し出すまでの間や喋っている時に相手から一気に捲し立てられると、一歩引いて心を閉ざしてしまう。
 四月から杏里を見てきて、少女はそれを理解していた。

「…ええと、ファーストフードだったら…」
「ホント!?やった!ありがとう!」

 少女は破顔すると、杏里に抱きつこうとして寸前で止どまり、小さな手を掴んで振り回した。

「じゃ行こう、も、すっごいお腹空いた!」
「きゃっ」


 夕焼けの下を、二人の少女が手を繋いで駆けて行く。

 眼鏡の少女が、振り解けないようにそっと手を握り返したのに気付くと、ポニーテールの少女はその日初めて心から微笑んだ。


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